サッカーの話をしよう
No.5 Jリーグの人気沸騰
Jリーグ、日本代表を中心としたサッカーの人気沸騰ぶりに、とまどっている人も少なくないだろう。
2、3年前まで、サッカーはたくさんの競技のひとつにすぎなかった。スポーツニュースでもプロ野球の後につけ加えられる程度。それがいまでは、プロ野球関係者に危機感をもたせるほどの人気と注目を浴びる存在になってしまった。
これまで3誌だったサッカー専門誌が、Jリーグの開幕に合わせて次々と創刊され、書店には雨後の筍のように解説書が並ぶ。2年前にはひとつもなかったテレビの定期番組も、数えられないほどになった。「新しいもの好き」の大衆や若者がマスコミに踊らされているだけなのか──。
たしかに、現在の人気は多分に「バブル」的な要素がある。日本代表がワールドカップに出場できるかどうかにバブルがいつまで続くかがかかっているが、いずれにしろ数年のうちにこの大騒ぎも収まるはずだ。
だがそれは、Jリーグがアマチュア程度の人気になったり、日本のサッカーが以前のようなマイナーな地位に戻ってしまうということではない。
かなり前、外国の雑誌に日本のサッカーの状況をレポートしてほしいと頼まれて、「特殊な第2位」と説明したことがあった。
日本のナンバーワンスポーツはもちろん野球。だがサッカーは少年たちを中心に野球にまさる人気を得ており、そのジェネレーションはすでに30代はじめまで上がっている。今後10年ごとにサッカーファンの層は上がっていき、いずれは野球に並ぶ、あるいは野球をしのぐ競技になるはずだ----。
サッカーが世界で最も普及しているスポーツであることはよく知られている。しかし以前はよく、日本には根づかないと言われた。「日本は『間』の文化の国なんだ。スポーツも相撲や野球のように間のあるスポーツだけが好まれる」というのが、その論拠だった。 しかしこの論理は現在の若い世代には通用しない。TVゲームで育った世代には、逆にその「間」がまどろっこしくて仕方がない。サッカーのように一瞬のうちに攻守が入れ代わる変化に富んだゲームのほうが、彼らの感性にはあう。
サッカーのもつ自由な雰囲気も若い世代に支持される。ファッションや髪形という外面の話ではない。その外面を生み出す競技の本質、試合が始まったら個々の選手がすべての判断を自ら下さなければならないことが共感を得ているのだ。
キャラクターグッズの派手な商品展開、これまでのスポーツ界では考えられなかったクラブソング、テレビ局との強気な交渉など、Jリーグの「商売上手」が取り沙汰されている。しかしそれはすべて大きな支持がベースにあってこそのもの。そのベースこそ少年層でのサッカー人気であり、若い世代の共感なのだ。
これまでサッカー少年や若いファンは日本のサッカーにあき足らず、世界に夢を求めていた。少年たちのアイドルは数年前までアルゼンチンのマラドーナ。だがいまでは人気ナンバーワンはカズであり、福田、ラモスら代表やJリーグをリードする選手たちだ。
現在のサッカー人気は、たしかに「バブル」だ。しかし日本のサッカーはこの間に確実に大きなステップを踏んだ。このバブルがはじけても、その後にはしっかりと根づいた人気が残るはずだ。
いやもしかしたら「泡」は、知らぬ間に実体となってしまうかもしれない。ルールもわからないまま人気と話題につられて観戦にきた人たちが、どんどんサッカーの魅力にとりつかれてしまっているからだ。
(1993年5月25日=火)
2、3年前まで、サッカーはたくさんの競技のひとつにすぎなかった。スポーツニュースでもプロ野球の後につけ加えられる程度。それがいまでは、プロ野球関係者に危機感をもたせるほどの人気と注目を浴びる存在になってしまった。
これまで3誌だったサッカー専門誌が、Jリーグの開幕に合わせて次々と創刊され、書店には雨後の筍のように解説書が並ぶ。2年前にはひとつもなかったテレビの定期番組も、数えられないほどになった。「新しいもの好き」の大衆や若者がマスコミに踊らされているだけなのか──。
たしかに、現在の人気は多分に「バブル」的な要素がある。日本代表がワールドカップに出場できるかどうかにバブルがいつまで続くかがかかっているが、いずれにしろ数年のうちにこの大騒ぎも収まるはずだ。
だがそれは、Jリーグがアマチュア程度の人気になったり、日本のサッカーが以前のようなマイナーな地位に戻ってしまうということではない。
かなり前、外国の雑誌に日本のサッカーの状況をレポートしてほしいと頼まれて、「特殊な第2位」と説明したことがあった。
日本のナンバーワンスポーツはもちろん野球。だがサッカーは少年たちを中心に野球にまさる人気を得ており、そのジェネレーションはすでに30代はじめまで上がっている。今後10年ごとにサッカーファンの層は上がっていき、いずれは野球に並ぶ、あるいは野球をしのぐ競技になるはずだ----。
サッカーが世界で最も普及しているスポーツであることはよく知られている。しかし以前はよく、日本には根づかないと言われた。「日本は『間』の文化の国なんだ。スポーツも相撲や野球のように間のあるスポーツだけが好まれる」というのが、その論拠だった。 しかしこの論理は現在の若い世代には通用しない。TVゲームで育った世代には、逆にその「間」がまどろっこしくて仕方がない。サッカーのように一瞬のうちに攻守が入れ代わる変化に富んだゲームのほうが、彼らの感性にはあう。
サッカーのもつ自由な雰囲気も若い世代に支持される。ファッションや髪形という外面の話ではない。その外面を生み出す競技の本質、試合が始まったら個々の選手がすべての判断を自ら下さなければならないことが共感を得ているのだ。
キャラクターグッズの派手な商品展開、これまでのスポーツ界では考えられなかったクラブソング、テレビ局との強気な交渉など、Jリーグの「商売上手」が取り沙汰されている。しかしそれはすべて大きな支持がベースにあってこそのもの。そのベースこそ少年層でのサッカー人気であり、若い世代の共感なのだ。
これまでサッカー少年や若いファンは日本のサッカーにあき足らず、世界に夢を求めていた。少年たちのアイドルは数年前までアルゼンチンのマラドーナ。だがいまでは人気ナンバーワンはカズであり、福田、ラモスら代表やJリーグをリードする選手たちだ。
現在のサッカー人気は、たしかに「バブル」だ。しかし日本のサッカーはこの間に確実に大きなステップを踏んだ。このバブルがはじけても、その後にはしっかりと根づいた人気が残るはずだ。
いやもしかしたら「泡」は、知らぬ間に実体となってしまうかもしれない。ルールもわからないまま人気と話題につられて観戦にきた人たちが、どんどんサッカーの魅力にとりつかれてしまっているからだ。
(1993年5月25日=火)
1993年から東京新聞夕刊で週1回掲載しているサッカーコラムです。試合や選手のことだけではなく、サッカーというものを取り巻く社会や文化など、あらゆる事柄を題材に取り上げています。このサイトでは連載第1回から全ての記事をアーカイブ化して公開しています。最新の記事は水曜日の東京新聞夕刊をご覧ください。