サッカーの話をしよう
No.16 U−17世界選手権 21世紀の予告編
国際サッカー連盟(FIFA)の公式世界選手権のひとつである「第2回FIFA/ビクターJVCカップ U−17世界選手権」の開幕がいよいよ近づいてきた。17歳以下の世界選手権。明日の世界のスターが初めて国際舞台に登場する大会として、世界からも大きな注目を集めている。
FIFAは1977年に20歳以下の「ワールドユース」をスタートさせ、85年にU−16(後のU−17)を創設、そして93年からはオリンピックを23歳以下の世界選手権として位置づけた。この3つの大会の整備によって、年齢制限のないワールドカップへのステップが完成した。ではFIFAは、これらの大会の開催で何を目指しているのだろうか。
74年にFIFA会長選挙に立候補したブラジル人のジョアン・アベランジェは、ルールの改正や、アジア、アフリカ、北米などサッカーの「発展途上地域」援助を公約に当選した。この第二の公約実現のために創出されたのが、年齢別の世界選手権だった。
世界のサッカーのリーダーは文句なく欧州と南米。ワールドカップ優勝はこの二者に独占されてきた。他の地域がその壁を破れなかったのは、主として環境の差だった。前者にはしっかりとしたプロ組織があり、後者には満足な施設もない状態だったからだ。
このままの状態では、両者の差は開く一方。ユースの年齢別世界選手権を開くことによって「発展途上地域」のタレントに早くからいいコーチを受けさせ、同時に国際経験を積ませてレベルを上げようというのがFIFAの計画だった。
効果は劇的だった。2年に1回開かれるワールドユースでは、81年大会でアジアのカタール、89年にアフリカのナイジェリア、そして93年にはガーナが準優勝を飾った。
85年に「U−16」としてスタート、91年から「U−17」となった大会では、第1回大会をナイジェリアが制覇し、89年にはサウジアラビア、91年にはガーナが優勝している。
ワールドユースでのナイジェリアとガーナの準優勝は、U−17の優勝の数年後。そしてガーナは、このユースの選手を中心としたチームで92年オリンピックで準優勝を飾っている。オリンピックが23歳以下の世界選手権であることを考えれば、アフリカ・サッカーの実力がすでに世界のトップに迫っていることが理解できるだろう。
90年ワールドカップでは、カメルーンが欧州と南米の強豪を倒してベスト8に進出。FIFAは、欧州の枠をひとつ削って、それまで2だったアフリカのワールドカップ出場枠を、九四年大会から3に増やさざるをえなくなった。
サッカーは20世紀で最も人気を得たスポーツである。しかし強豪が一部の地域に偏るのは21世紀のサッカーにとって好ましい状態ではない。アフリカ、アジア、北アメリカなどのレベルを引き上げ、ヨーロッパ、南米と競わせることができれば、さらに発展が期待できるだろう。こうしたFIFAの夢は、アベランジェの会長就任から20年を経ていよいよ現実のものになろうとしている。
今回のU−17でも、優勝候補の筆頭とされるのは前回優勝のガーナ。アジア代表の中国、オセアニアのオーストラリア、そしてアメリカも、上位進出の力をもったチームといわれる。ヨーロッパはポーランド、南米からはアルゼンチンが有力視されるが、楽な戦いはひとつもないはずだ。
こうした力関係は、21世紀の世界のサッカーの勢力図を予言するものとなるかもしれない。
(1993年8月17日=火)
FIFAは1977年に20歳以下の「ワールドユース」をスタートさせ、85年にU−16(後のU−17)を創設、そして93年からはオリンピックを23歳以下の世界選手権として位置づけた。この3つの大会の整備によって、年齢制限のないワールドカップへのステップが完成した。ではFIFAは、これらの大会の開催で何を目指しているのだろうか。
74年にFIFA会長選挙に立候補したブラジル人のジョアン・アベランジェは、ルールの改正や、アジア、アフリカ、北米などサッカーの「発展途上地域」援助を公約に当選した。この第二の公約実現のために創出されたのが、年齢別の世界選手権だった。
世界のサッカーのリーダーは文句なく欧州と南米。ワールドカップ優勝はこの二者に独占されてきた。他の地域がその壁を破れなかったのは、主として環境の差だった。前者にはしっかりとしたプロ組織があり、後者には満足な施設もない状態だったからだ。
このままの状態では、両者の差は開く一方。ユースの年齢別世界選手権を開くことによって「発展途上地域」のタレントに早くからいいコーチを受けさせ、同時に国際経験を積ませてレベルを上げようというのがFIFAの計画だった。
効果は劇的だった。2年に1回開かれるワールドユースでは、81年大会でアジアのカタール、89年にアフリカのナイジェリア、そして93年にはガーナが準優勝を飾った。
85年に「U−16」としてスタート、91年から「U−17」となった大会では、第1回大会をナイジェリアが制覇し、89年にはサウジアラビア、91年にはガーナが優勝している。
ワールドユースでのナイジェリアとガーナの準優勝は、U−17の優勝の数年後。そしてガーナは、このユースの選手を中心としたチームで92年オリンピックで準優勝を飾っている。オリンピックが23歳以下の世界選手権であることを考えれば、アフリカ・サッカーの実力がすでに世界のトップに迫っていることが理解できるだろう。
90年ワールドカップでは、カメルーンが欧州と南米の強豪を倒してベスト8に進出。FIFAは、欧州の枠をひとつ削って、それまで2だったアフリカのワールドカップ出場枠を、九四年大会から3に増やさざるをえなくなった。
サッカーは20世紀で最も人気を得たスポーツである。しかし強豪が一部の地域に偏るのは21世紀のサッカーにとって好ましい状態ではない。アフリカ、アジア、北アメリカなどのレベルを引き上げ、ヨーロッパ、南米と競わせることができれば、さらに発展が期待できるだろう。こうしたFIFAの夢は、アベランジェの会長就任から20年を経ていよいよ現実のものになろうとしている。
今回のU−17でも、優勝候補の筆頭とされるのは前回優勝のガーナ。アジア代表の中国、オセアニアのオーストラリア、そしてアメリカも、上位進出の力をもったチームといわれる。ヨーロッパはポーランド、南米からはアルゼンチンが有力視されるが、楽な戦いはひとつもないはずだ。
こうした力関係は、21世紀の世界のサッカーの勢力図を予言するものとなるかもしれない。
(1993年8月17日=火)
1993年から東京新聞夕刊で週1回掲載しているサッカーコラムです。試合や選手のことだけではなく、サッカーというものを取り巻く社会や文化など、あらゆる事柄を題材に取り上げています。このサイトでは連載第1回から全ての記事をアーカイブ化して公開しています。最新の記事は水曜日の東京新聞夕刊をご覧ください。