サッカーの話をしよう
No.20 ほしい見せるための施設
「過去40年間で最大規模」といわれた台風13号の影響で、9月4日に東京で予定されていたU−17世界選手権の3位決定戦と決勝戦は実施できるかどうか心配された。
直撃の心配がなくなった4日午前にも、国際サッカー連盟(FIFA)の役員間では「あれだけ雨が降ったのだから、グラウンド状態を考えて三位決定戦は中止にしたら」という意見が圧倒的だった。午後3時過ぎに国立競技場を視察したFIFA役員は、「カバーしてあったのか。特別な芝なのか」と口をそろえて感嘆した。それほど完璧な排水状態だった。
89年に改装された国立競技場のピッチは、1年中緑が保たれると同時に、排水能力が飛躍的に向上し、どんな雨の後でも通常の状態で使用できるようになった。試合をいい状態で行うために、この排水能力がどれほど助けになっているか計り知れない。
台風の大雨は、はからずも2002年ワールドカップの日本開催に対するFIFAへの大きなデモンストレーションとなった。
2002年のワールドカップの招致活動が本格化したのは91年。翌年には15都市が開催地に立候補、スタジアム計画の概要も発表された。だがそれは少なからず失望させるものだった。「21世紀最初の世界的イベントが日本で開催される」にふさわしい、新たな「提案」がどこにも見当たらなかったからだ。
素人考えだが、競技コンディションの一定化、観客の快適さを考えれば、将来のスタジアムは当然、開閉式の全屋根型になるだろうと思っていた。そして日本で開催される「21世紀のワールドカップ」のスタジアムの大半はそうなるのではないかと思っていた。だが現在のスタジアム計画にはこうした形式はない。要求されていないからだ。
2002年のワールドカップ開催のための諸条件はFIFAから来年出されることになっている。屋根については「客席の3分の2が覆われていること」といった程度となりそうだ。
都市によっては、開閉式の全屋根を検討したところもあるという。しかし建設費の関係で現在は計画から外されている。スタジアムは全部地方自治体が建設する。つまり税金でつくるのだ。できるだけ安くという考えはある意味で当然だ。
だがここで現在のJリーグの状況を見てほしい。茨城県は人口4万5000人の鹿島町に80億円を投じてスタジアムをつくり、それが地域活性化の大きな力となった。浦和で、市原で、清水で何が起こっているか。Jリーグチームの存在は、地域に大きな喜びと誇りを与えているではないか。立派な施設をつくり、一流のスポーツを「見せる」ことは、地域にとって非常に意義のあることなのだ。
これまで地方につくられてきたスポーツ施設は、市民に「見せる」ことよりも市民が「使う」ことを主要目的としていた。だがもうそろそろ、徹底的に「見せる」ことを目的とした施設をつくるべきではないか。2002年ワールドカップは、そのためのいいきっかけになるのではないか。
折しも、オランダのアムステルダムからは、新スタジアム着工のニュースがはいってきた。5万人収容、人気クラブ・アヤックスが使うが、開閉式全屋根をもった最新のハイテクスタジアムだという。
国立競技場の排水能力は世界に誇るものだ。だがそれだけではスポーツを「見せる」施設としては満点とはいえない。2002年用の施設が21世紀の社会にふさわしいものか、もういちど検討してもらいたいと思う。
(1993年9月14日=火)
直撃の心配がなくなった4日午前にも、国際サッカー連盟(FIFA)の役員間では「あれだけ雨が降ったのだから、グラウンド状態を考えて三位決定戦は中止にしたら」という意見が圧倒的だった。午後3時過ぎに国立競技場を視察したFIFA役員は、「カバーしてあったのか。特別な芝なのか」と口をそろえて感嘆した。それほど完璧な排水状態だった。
89年に改装された国立競技場のピッチは、1年中緑が保たれると同時に、排水能力が飛躍的に向上し、どんな雨の後でも通常の状態で使用できるようになった。試合をいい状態で行うために、この排水能力がどれほど助けになっているか計り知れない。
台風の大雨は、はからずも2002年ワールドカップの日本開催に対するFIFAへの大きなデモンストレーションとなった。
2002年のワールドカップの招致活動が本格化したのは91年。翌年には15都市が開催地に立候補、スタジアム計画の概要も発表された。だがそれは少なからず失望させるものだった。「21世紀最初の世界的イベントが日本で開催される」にふさわしい、新たな「提案」がどこにも見当たらなかったからだ。
素人考えだが、競技コンディションの一定化、観客の快適さを考えれば、将来のスタジアムは当然、開閉式の全屋根型になるだろうと思っていた。そして日本で開催される「21世紀のワールドカップ」のスタジアムの大半はそうなるのではないかと思っていた。だが現在のスタジアム計画にはこうした形式はない。要求されていないからだ。
2002年のワールドカップ開催のための諸条件はFIFAから来年出されることになっている。屋根については「客席の3分の2が覆われていること」といった程度となりそうだ。
都市によっては、開閉式の全屋根を検討したところもあるという。しかし建設費の関係で現在は計画から外されている。スタジアムは全部地方自治体が建設する。つまり税金でつくるのだ。できるだけ安くという考えはある意味で当然だ。
だがここで現在のJリーグの状況を見てほしい。茨城県は人口4万5000人の鹿島町に80億円を投じてスタジアムをつくり、それが地域活性化の大きな力となった。浦和で、市原で、清水で何が起こっているか。Jリーグチームの存在は、地域に大きな喜びと誇りを与えているではないか。立派な施設をつくり、一流のスポーツを「見せる」ことは、地域にとって非常に意義のあることなのだ。
これまで地方につくられてきたスポーツ施設は、市民に「見せる」ことよりも市民が「使う」ことを主要目的としていた。だがもうそろそろ、徹底的に「見せる」ことを目的とした施設をつくるべきではないか。2002年ワールドカップは、そのためのいいきっかけになるのではないか。
折しも、オランダのアムステルダムからは、新スタジアム着工のニュースがはいってきた。5万人収容、人気クラブ・アヤックスが使うが、開閉式全屋根をもった最新のハイテクスタジアムだという。
国立競技場の排水能力は世界に誇るものだ。だがそれだけではスポーツを「見せる」施設としては満点とはいえない。2002年用の施設が21世紀の社会にふさわしいものか、もういちど検討してもらいたいと思う。
(1993年9月14日=火)
1993年から東京新聞夕刊で週1回掲載しているサッカーコラムです。試合や選手のことだけではなく、サッカーというものを取り巻く社会や文化など、あらゆる事柄を題材に取り上げています。このサイトでは連載第1回から全ての記事をアーカイブ化して公開しています。最新の記事は水曜日の東京新聞夕刊をご覧ください。