サッカーの話をしよう
No.21 中学サッカー部に女子の入部を
東京のある女子サッカーチームの監督という仕事を引き受けてちょうど10年目になる。だがことしほど入会希望者が多い年はない。そしてその多くが「小学生のときにサッカーをやっていたが、中学、高校には女子のサッカー部がなかったので他のスポーツをしていた」という者だ。
しばらくサッカーから離れていたが、Jリーグブームでまたボールをけりたくなり、チームを探し回った挙げ句、私のクラブにたどりついたというわけだ。
実は、「女子サッカー」という名称自体、私はあまり好きではない。第一になぜ「女性」でなく「女子」なのか。第二に、男も女も日本サッカー協会の管轄下にあり、ルールもまったく同じなのに、なぜ一方にだけ「女子」とつけなければいけないのか。
それはともかく、小学生の女の子たちの間でもサッカーはすごい人気だ。東京のサッカー協会に登録しているチームだけで76もある。練習は男子といっしょにし、試合だけ分かれてやっているところも多い。なかには男の子の試合に出場する女の子もいる。
しかし小学校を卒業すると、彼女たちはとたんにチームを失ってしまう。女子のサッカー部をもつ中学校は、東京中を探しても10校にも満たず、その大半は私立学校だからだ。
高校生以上になれば、少しは状況が良くなる。学校チームも中学より多いし、練習に通う距離が少し遠くなることをがまんしさえすれば、クラブチームがいくつかある。中学生では練習のために遠い距離を通うわけにはいかない。だからこそ、小学校時代のように学校チームあるいは学区のクラブが必要になる。
だが現実は悲観的だ。校庭はいろいろな部が使い、男子のサッカー部もほんの一部で練習しなければならない状態。これ以上新しいクラブが生まれても練習するスペースはないだろう。練習を指導し、試合の引率をする先生も必要となる。
以前原作を書いたサッカー漫画で、この問題に触れたことがある。そこでは男子のサッカー部のキャプテンが「サッカー部に与えられたグラウンドの割当てを女子と半分ずつ使おう」と提案する。猛反対する仲間を、彼は「僕らにJリーグやワールドカップの夢があるように、女の子たちにだってサッカーに対する夢はあるんだ」と説得する。
来年ワールドカップを開催するアメリカはサッカー後進国と思われているが、実はある意味ですごいサッカー大国だ。女子選手が数百万人もいるからだ。アメリカンフットボールや野球と違って、サッカーは男性と同じように楽しむことができる。それが人気の秘密だという。各地で行われるジュニアの大会では、たいてい男女両方のトーナメントが組まれる。もちろん全国のハイスクールには、男子だけでなく女子のサッカー部がある。
日本の女の子たちも、思う存分サッカーをプレーしたいと考えているはずだ。いきなり女子サッカー部をつくるのが無理なら、まずは中学のサッカー部に女子の入部を許可し、いっしょに練習するようにしてみてはどうか。
「これで女子のレベルが上がり、代表チームが強くなる」、「女性はやがて母親になる。母親をサッカーの味方につければ日本サッカーの発展に役立つ」といった計算でこんな提案をしているわけではない。
知ってもらいたいのは、女の子も男の子と同じようにサッカーを愛し、サッカーに対する情熱をもっているということだ。サッカーを楽しむチャンスを男女平等に与えることは、学校や日本サッカー協会の責任でもあるはずだ。
(1993年9月21日=火)
しばらくサッカーから離れていたが、Jリーグブームでまたボールをけりたくなり、チームを探し回った挙げ句、私のクラブにたどりついたというわけだ。
実は、「女子サッカー」という名称自体、私はあまり好きではない。第一になぜ「女性」でなく「女子」なのか。第二に、男も女も日本サッカー協会の管轄下にあり、ルールもまったく同じなのに、なぜ一方にだけ「女子」とつけなければいけないのか。
それはともかく、小学生の女の子たちの間でもサッカーはすごい人気だ。東京のサッカー協会に登録しているチームだけで76もある。練習は男子といっしょにし、試合だけ分かれてやっているところも多い。なかには男の子の試合に出場する女の子もいる。
しかし小学校を卒業すると、彼女たちはとたんにチームを失ってしまう。女子のサッカー部をもつ中学校は、東京中を探しても10校にも満たず、その大半は私立学校だからだ。
高校生以上になれば、少しは状況が良くなる。学校チームも中学より多いし、練習に通う距離が少し遠くなることをがまんしさえすれば、クラブチームがいくつかある。中学生では練習のために遠い距離を通うわけにはいかない。だからこそ、小学校時代のように学校チームあるいは学区のクラブが必要になる。
だが現実は悲観的だ。校庭はいろいろな部が使い、男子のサッカー部もほんの一部で練習しなければならない状態。これ以上新しいクラブが生まれても練習するスペースはないだろう。練習を指導し、試合の引率をする先生も必要となる。
以前原作を書いたサッカー漫画で、この問題に触れたことがある。そこでは男子のサッカー部のキャプテンが「サッカー部に与えられたグラウンドの割当てを女子と半分ずつ使おう」と提案する。猛反対する仲間を、彼は「僕らにJリーグやワールドカップの夢があるように、女の子たちにだってサッカーに対する夢はあるんだ」と説得する。
来年ワールドカップを開催するアメリカはサッカー後進国と思われているが、実はある意味ですごいサッカー大国だ。女子選手が数百万人もいるからだ。アメリカンフットボールや野球と違って、サッカーは男性と同じように楽しむことができる。それが人気の秘密だという。各地で行われるジュニアの大会では、たいてい男女両方のトーナメントが組まれる。もちろん全国のハイスクールには、男子だけでなく女子のサッカー部がある。
日本の女の子たちも、思う存分サッカーをプレーしたいと考えているはずだ。いきなり女子サッカー部をつくるのが無理なら、まずは中学のサッカー部に女子の入部を許可し、いっしょに練習するようにしてみてはどうか。
「これで女子のレベルが上がり、代表チームが強くなる」、「女性はやがて母親になる。母親をサッカーの味方につければ日本サッカーの発展に役立つ」といった計算でこんな提案をしているわけではない。
知ってもらいたいのは、女の子も男の子と同じようにサッカーを愛し、サッカーに対する情熱をもっているということだ。サッカーを楽しむチャンスを男女平等に与えることは、学校や日本サッカー協会の責任でもあるはずだ。
(1993年9月21日=火)
1993年から東京新聞夕刊で週1回掲載しているサッカーコラムです。試合や選手のことだけではなく、サッカーというものを取り巻く社会や文化など、あらゆる事柄を題材に取り上げています。このサイトでは連載第1回から全ての記事をアーカイブ化して公開しています。最新の記事は水曜日の東京新聞夕刊をご覧ください。