サッカーの話をしよう

No.26 レフェリーは大陸を超えて

 ワールドカップのアジア最終予選もいよいよ大詰めにきたが、韓国対サウジアラビア戦直後のサウジ・ファンの乱入以外は大きな事件もなく試合運営が行われている。その大きな理由はレフェリングがしっかりしていることだ。
 今大会、国際サッカー連盟(FIFA)はすべての審判をヨーロッパの審判員で行うことを決定、イタリア、オランダ、ドイツ、スイス、フランス、ルーマニアからそれぞれ1人ずつ国際レフェリーと国際ラインズマン、合計12人の審判を送り込んできた。
 はっきりいって、全員が世界のトップクラスとはいえない。細かなミスも見られる。だが判定が公平で、何よりも権威がある。反則や警告、退場の基準がはっきりとしているので、余計なトラブルが生じない。

 ワールドカップの予選は大陸の連盟別に行われるので、これまでは審判もその大陸連盟の加盟国のなかから選ばれていた。アジアの予選なら、アジアの審判だけで行われていた。
 違う大陸の審判同士が集まるのは、ワールドカップをはじめとした世界選手権やオリンピックなどのときだけだった。
 しかし、1990年のイタリア・ワールドカップで審判のレベルが低いという問題が大きくクローズアップされてから、FIFAはいろいろな方策をとってきた。国際審判員を「国際レフェリー」と「国際ラインズマン」にはっきり分け、ラインズマンのレベルアップを計ったこと、国際審判員の年齢制限を50歳から45歳に引き下げ体力の充実を計ったことと並んで推進しているのが、「審判の大陸間ミックス」だ。
 審判員をその大陸連盟内の仕事にとどめず、積極的に他の大陸の試合を担当させることによって、世界中の審判員のレベルを上げ、同時にルールの解釈、罰則の適用などを統一していこうという狙いだ。

 92年10月にロンドンで行われたワールドカップ予選のイングランド対ノルウェーのレフェリーを務めたのは、メキシコ人のアルトゥロ・ブリシオ氏だった。これは、ヨーロッパ内で行われたワールドカップ決勝大会以外のヨーロッパ同士の対戦を、ヨーロッパ以外の審判が担当した初のケースとなった。
 92年のアフリカ選手権には日本の舘喜一郎氏が参加し、アジアカップにはアフリカの審判員がきた。

 だが、今回のアジア最終予選の審判をすべてヨーロッパの人にしたのは、「大陸間ミックス」以外に、政治、宗教、民族などで複雑かつ微妙な問題をもつ国同士の対戦が多いため、しっかりとしたレフェリングが必要という判断が、FIFAにあったからだ。
 「アジアの国同士の対戦は、どの国の審判がやっても微妙な問題がからむので難しい。たとば、日本対イラクの試合をクウェートの審判が担当するのは、中立国とはいえ、大きな問題がある。ヨーロッパ人ならばそうしたプレッシャーはより少なくてすむはず」
 というのが、今大会のゼネラル・コーディネーターを務めるFIFAのハビエル・オテーロ氏の説明だ。
 その狙いは、見事に的中した。今大会がこのまま大きなトラブルなく終わるなら、それは審判員たちの功績だろう。
 Jリーグもイングランドのマーチン・ボデナム氏、アルゼンチンのフアン・カルロス・クレスピ氏と、ヨーロッパと南米の一流の審判員がきて笛を吹き、日本のレフェリング技術の向上に大きく役だった。
 選手もいろいろな国際交流を通じて向上する。審判にも、同じような時代がきたといえるだろう。

(1993年10月26日=火)
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