サッカーの話をしよう

No.31 GKに甘いPKルール

 少し古い話になるが、8月28日のJリーグ、清水エスパルス対ヴェルディ川崎戦で興味深いシーンがあった。0−0でPK戦となり、ヴェルディ5人目の石川のキックのときだ。
 エスパルスのGKシジマールが左に跳んで見事シュートをストップ。だが菊池光悦主審はやり直しを命じる。こんどは逆サイドに飛んだボールをまたもシジマールが押さえた。ではなぜ最初のキックはやり直しになったのだろうか。

 ルールでは、PKのときのGKの動きを次のように規定している。
 「守備側のゴールキーパーは、ボールがけられるまで、両ゴールポスト間のゴールライン上に、(足を動かさずに)立っていなければならない」
 この規定に違反があった場合には、「得点を認めずペナルティーキックをふたたび行う」となっている。
 シジマールは石川のキックより早く左足を左前へ大きく踏みだし、見事ボールを止めた。菊池主審の判定はまったく正しいといわねばならない。
 問題は、今日、トップクラスのGKの大半はキックの前に動き、ヤマを張ってダイブするということだ。それによって、80%、90%というPKの確率を、70%以下に下げようというのだ。

 キッカーは原則としてどちらかの隅を狙う。だがGKがヤマをかけてダイブすることを見越して中央に力いっぱいける選手もいる。いずれにしても、右か、中央か、左か、三つにひとつの選択だ。しかも人間がものを見てからの体を動かすまでの「反応時間」を考えると、キックを見てから跳ぶのではけっして間に合わない。だからGKはヤマをかけてダイブする。
 しかも、できるだけシュートの角度をカバーできるように、できるだけ前進してダイブしようとする。その結果、キックの前にゴールラインを離れるプレーが横行する。
 審判がルールを厳格に適用すれば、このようなことはないはず。しかし、「PKははいって当たり前。少しぐらい先に動いても、ストップすればGKのファインプレー」という考えでもあるのだろうか、GKが先に動いたということでやり直しを命じる審判はほとんどいない。

 これは日本だけの話ではない。世界中の審判が同じように「GKに甘い」判定をしているのだ。
 サッカーのルールはたった17条しかなく、非常にシンプルなものだが、それだけに、大半はしっかりと適用されている。このPKのときのGKに動きに関する規定ほど無視されているものはない。
 ルール違反を見逃すのが常識となっているといっても、ルールはルール。審判が適用しようとすれば、いつでもできる。そしてそれは、はっきりいって何の基準もなく突然適用される。このまま放置すれば、大きなスキャンダルにつながる危険性をはらんでいる。

 今日では、PK戦という新しい状況が生まれ、PKルールの重要性は以前にも増して大きくなっている。90分間の勝利もPK戦の勝利も同じ比重のJリーグはもちろん、ワールドカップでも、ベスト16の試合から決勝戦まで、最終的に勝負を決める手段はPK戦となっているからだ。
 国際サッカー連盟(FIFA)は、現行のルールのままでいくなら、審判に対して厳格に判定するように指導しなければならない。また、GKがキックの前に動くことを認めるのなら、ルールを改正しなければならない。いずれにしろ、ルールが無視されている状態をこれ以上続けることはできない。

(1993年12月7日=火)
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