サッカーの話をしよう

No.35 日本代表のサッカーには魅力があった

 新しい「サッカーの年」が明けた。1994年、ワールドカップ・アメリカ大会の年だ。
 だが、組分け抽選会など大会のニュースがはいってくるごとに、悔しい気持ちがまたふつふつと湧いてくる。それは日本のサッカー関係者、ファンのすべてに共通することだろう。
 だがもっと悔しいのは、「日本の実力ではワールドカップに出ても勝つことはできない。負けてよかったんだ」などと言う人がいることだ。こうした意見はとくに「サッカー関係者」といわれる人に少なくない。
 「日本が出ていればどうなったか」などという仮定の話をするつもりはない。ただ、1993年の日本代表チームの実力とプレー内容が、世界のサッカーのなかでどのような地位のものであったについて、私の見解を書いておきたい。オフト前監督がいう「ヒストリー」についての正しい評価がなければ、今後の道を誤る危険性があるからだ。

 1968年のメキシコ五輪以来「世界」から遠ざけられた日本のサッカー。親善試合や遠征で対戦することはあっても、ワールドカップなどの「実戦」で鍛えられるのは大きく違う。いわば、親善試合という「出島」を残した鎖国状態だったといっていいだろう。
 そこにやってきたオフトは、選手たちのなかに可能性を発見し、わずか1年半のうちにすばらしいチームをつくり上げた。すばらしかったのはチームが強くなったことだけではない。現代的で、しかも選手の才能に信頼を置いた攻撃的なチームが完成したことだ。
 現代のサッカーは勝利があまりに重視され、コーチたちはその目標をクリアすることだけに心を奪われている。魅力的な攻撃を見せるチームは、世界中を探してもごくわずかしかない。

 そうしたなかで、オフトと選手たちがつくり出したサッカーは、個性が生かされ、攻撃やゴールに対する個々の選手の情熱が十分に表現されたものだった。そしてチームに浸透した近代的な戦術の理解は、過去のアジア・サッカーのなかでは傑出したものだった。
 世界中がシニカルに、守備的に、そして退屈なプレーになった1993年、日本代表のサッカーはひときわ魅力あるものとして光を放った。その光を「予選突破」に結びつけることができなかった要因は、25年間にもわたる「鎖国」状態、国際的な真剣勝負での経験不足だけだった。

 カタールで行われた最終予選は、ある意味でアジア・サッカーの立ち遅れを示すものだったが、けっして「簡単」な大会ではなかった。欧州や南米の強豪がきたとしても、楽に全勝できるチームはなかったろう。そんな大会で、経験不足からくる緊張でつまずきながら、予選突破の直前までもっていった日本の実力は、並々ならぬものであったことがわかるはずだ。
 国際サッカー連盟が出している「代表チームランキング」(93年末で日本は43位)は、過去8年間の国際試合の成績を集計したもの。「24位以内ではないのだからワールドカップに出る資格はない」という意見は見当はずれだ。
 ワールドカップという最高の舞台で、日本代表がその真の価値を証明する機会を得られなかったことが残念でならない。そして「日本のサッカーはまだまだダメだ」と言えば、「そのへんのサッカーファン」と一線を画せると勘違いしている「サッカー関係者」が少なくないことは悲しい。
 昨年の日本代表ほど魅力的な攻撃プレーをできるチームが、世界にいくつあるか。この夏にアメリカで行われるワールドカップで、それがわかるだろう。

(1994年1月4日=火)
クリエイティブ・コモンズ・ライセンス

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