サッカーの話をしよう
No.36 高校サッカーとイエローカード
正月の高校選手権で警告が72にもなり、退場も3人出た。高校生の大会でこんなにイエローカード、レッドカードが出たのはもちろん初めてのこと。「Jリーグの悪影響だ」という声も聞かれた。
試合を見ていると、後ろからの無理なタックルなどの危険なプレー、抜かれたときに手を使って相手をつかんだりする反則が目立った。これを「試合が激しくなった」と見るのは見当違い。正しい守備の技術が身についていないのだ。
ボールをあやつってドリブルで相手を抜くのは簡単な技術ではないけれど、楽しいので子供のときからみんな一生懸命に練習する。高校選手権に出てくる選手になれば、かなりできる。だが、きちんとした守備の技術や戦術を身につけた選手は稀にしかいない。
現在のサッカーでは、ディフェンダーでもボールをしっかりと扱えなければならないし、ドリブルの能力も必要とされる。だから小学校、中学校、高校と上がっていくにつれ、それまでFWをしていた選手がDFにコンバートされて「攻撃力のあるDF」がつくられていくケースが多い。
それに加え、守備の場面では「プレッシャーをかける」(ボールをもっている選手に激しく詰め寄り、自分ではボールを取れなくても相手に自由にプレーさせない)ことを要求される。
このふたつの要素が重なって、ただ激しく体当たりするだけのディフェンス、タックルできる間合いかどうかなどお構いなしにとびこんでいくプレー、背後からのタックルが続出する。競り合いのときに相手をつかみ、押しのけるのも、ひとつのテクニックだなどと勘違いされている。
これは高校サッカーだけの話ではない。残念なことだが、Jリーグ、そして世界のサッカーに共通する傾向といえる。ワールドカップでも、しっかりとした守備技術を身につけていないディフェンダーを見ることは驚くほど多い。
国際サッカー連盟は、この種の反則をなくさないとサッカーの魅力が失われてしまうと考え、きびしく対処する方針をとっている。そのために、イエローカードやレッドカードをためらわずに出すことを主審に義務づけている。
高校サッカーで警告、退場が多かったのは、そうしたガイドラインに沿ったまでことで、大会のプレーを見れば、一試合平均二枚近くのカードが出るのは当然という状況だ。
高校チームの指導者は、まず、何が反則であるかをしっかりと教え(それがわかっていない選手が少なくないように見える)、同時に、正しい守備技術と守備戦術を身につけられるようなトレーニングを施さなければならない。
高校サッカーでは、かつてほとんどイエローカードなど出なかった。勢い余ってファウルをする者はいても、故意に反則する選手は滅多にいなかったこともある。だが、主審が出そうとしなかったことも、理由のひとつだった。主審には先生が多く、警告や退場などの「処分」を受けることは選手本人の経歴にキズがつくと思ったからだ。なかには「就職に影響する」と考えた先生もいたそうだ。
これは間違っている。
警告や退場の理由はいろいろあるが、それはあくまでサッカーのフィールド内のこと。基本的には、その選手の人間としての価値とはまったく関係がない。
警告・退場となる反則の主要原因は守備の技術や戦術が未熟なこと。未熟さは恥ずべきことではない。恥ずかしく思わなければならないのは、その未熟さを成長させることのできない指導者たちであるずだ。
(1994年1月11日=火)
試合を見ていると、後ろからの無理なタックルなどの危険なプレー、抜かれたときに手を使って相手をつかんだりする反則が目立った。これを「試合が激しくなった」と見るのは見当違い。正しい守備の技術が身についていないのだ。
ボールをあやつってドリブルで相手を抜くのは簡単な技術ではないけれど、楽しいので子供のときからみんな一生懸命に練習する。高校選手権に出てくる選手になれば、かなりできる。だが、きちんとした守備の技術や戦術を身につけた選手は稀にしかいない。
現在のサッカーでは、ディフェンダーでもボールをしっかりと扱えなければならないし、ドリブルの能力も必要とされる。だから小学校、中学校、高校と上がっていくにつれ、それまでFWをしていた選手がDFにコンバートされて「攻撃力のあるDF」がつくられていくケースが多い。
それに加え、守備の場面では「プレッシャーをかける」(ボールをもっている選手に激しく詰め寄り、自分ではボールを取れなくても相手に自由にプレーさせない)ことを要求される。
このふたつの要素が重なって、ただ激しく体当たりするだけのディフェンス、タックルできる間合いかどうかなどお構いなしにとびこんでいくプレー、背後からのタックルが続出する。競り合いのときに相手をつかみ、押しのけるのも、ひとつのテクニックだなどと勘違いされている。
これは高校サッカーだけの話ではない。残念なことだが、Jリーグ、そして世界のサッカーに共通する傾向といえる。ワールドカップでも、しっかりとした守備技術を身につけていないディフェンダーを見ることは驚くほど多い。
国際サッカー連盟は、この種の反則をなくさないとサッカーの魅力が失われてしまうと考え、きびしく対処する方針をとっている。そのために、イエローカードやレッドカードをためらわずに出すことを主審に義務づけている。
高校サッカーで警告、退場が多かったのは、そうしたガイドラインに沿ったまでことで、大会のプレーを見れば、一試合平均二枚近くのカードが出るのは当然という状況だ。
高校チームの指導者は、まず、何が反則であるかをしっかりと教え(それがわかっていない選手が少なくないように見える)、同時に、正しい守備技術と守備戦術を身につけられるようなトレーニングを施さなければならない。
高校サッカーでは、かつてほとんどイエローカードなど出なかった。勢い余ってファウルをする者はいても、故意に反則する選手は滅多にいなかったこともある。だが、主審が出そうとしなかったことも、理由のひとつだった。主審には先生が多く、警告や退場などの「処分」を受けることは選手本人の経歴にキズがつくと思ったからだ。なかには「就職に影響する」と考えた先生もいたそうだ。
これは間違っている。
警告や退場の理由はいろいろあるが、それはあくまでサッカーのフィールド内のこと。基本的には、その選手の人間としての価値とはまったく関係がない。
警告・退場となる反則の主要原因は守備の技術や戦術が未熟なこと。未熟さは恥ずべきことではない。恥ずかしく思わなければならないのは、その未熟さを成長させることのできない指導者たちであるずだ。
(1994年1月11日=火)
1993年から東京新聞夕刊で週1回掲載しているサッカーコラムです。試合や選手のことだけではなく、サッカーというものを取り巻く社会や文化など、あらゆる事柄を題材に取り上げています。このサイトでは連載第1回から全ての記事をアーカイブ化して公開しています。最新の記事は水曜日の東京新聞夕刊をご覧ください。