サッカーの話をしよう
No.39 シンプルなユニホームが好きだ
私が一応「選手」として登録しているクラブが、ユニホームを新調した。
町のクラブチームにとってユニホームは頭の痛い問題だ。毎年数人ずつ新人がはいる。だがメーカーが同じユニホームをつくるのはわずか3年間程度。注文すると「廃版です」。
メーカーは次から次へと新しいデザインのユニホームをつくり、有名チームに着せるキャンペーン後に市場に出す。そしてある程度売ると、またモデルチェンジする。そのサイクルも年ごとに短くなっている。
その結果、チームはユニホームを毎年全員で新調しなければならない。3年前からいる選手も、昨年秋にはいったばかりの選手もいっしょだ。
メーカーの「戦略」は、町のチームばかりでなく、トップクラスのチームにも影響を与える。
JリーグはM社と独占契約を結び、全チームにこのメーカーのユニホームをリーグ戦で着用するよう義務づけている。制作担当者の努力でなかなかハイレベルなものがそろったが、結局は流行のプリント柄のものが圧倒的に多かった。
このプリント柄自体、メーカーの戦略そのものだ。世界的なスポーツメーカーのA社が肩から袖にかけて三本ラインを入れたユニホームでワールドカップ出場チームの多くをおさえたのが1974四年。80年代にはいると、このメーカーは次々と新デザインのユニホームを有力チームに着せ、市場をリードした。90年代にはいって、A社に対抗するように他のメーカーが出してきたのが、プリント柄のユニホームだった。
縫い合わせでなく、プリント柄にすることによって細かな色使いができるようになった。近くで見るときれいだ。しかしこれには大きな欠陥があった。フィールド上に散った選手のをスタンドから見ると、何色も細かく使ってあるため力強さがない。テレビでは色がにじんで見える。
Jリーグでは、マリノスとヴェルディのユニホームがとくにひどい。昨年五月の開幕戦は、パンツの色が同じ白だったこともあり、非常にみにくかった。小さなテレビではほとんど区別がつかなかっただろう。
92年の秋に採用された日本代表のユニホームもプリント柄。背中にまで柄があるので、背番号がとても見づらい。せめて背中は青一色にすべきだ。
最近のゴールキーパーのユニホームにいたっては、何色か、はっきり言うことさえ難しい。複雑極まりない色使いのプリント柄は、時に「フィールドプレーヤーとの識別」というGKユニホームの役割を無視したものになっている。
メーカーも、生き残るため、限られた数のプレーヤーに毎年ユニホームを買わせため必死なのだろうが、その結果起こっていることは、選手も、ファンも、誰も幸せにはしていない。
A社は、ことしのワールドカップで、また新しいデザインのユニホームを何種類か用意するという。それはドイツやアルゼンチンといった強豪や話題の新興チームに着られるだろう。
A社は審判用のユニホームも担当しているが、今回はピンクや白のプリント柄のユニホームを用意しているという。
カラフルになるのは悪いことではない。それで明るい気分になり、試合が楽しいものになればいうことはない。だがユニホームというのは、本来二つのチームを明確に分け、試合をスムーズに行うためのもの。それを忘れてはいけない。
シンプルなユニホームが好きだ--。
自分のチームの事情だけでではないことは、おわかりいただけるだろう。
(1994年2月1日=火)
町のクラブチームにとってユニホームは頭の痛い問題だ。毎年数人ずつ新人がはいる。だがメーカーが同じユニホームをつくるのはわずか3年間程度。注文すると「廃版です」。
メーカーは次から次へと新しいデザインのユニホームをつくり、有名チームに着せるキャンペーン後に市場に出す。そしてある程度売ると、またモデルチェンジする。そのサイクルも年ごとに短くなっている。
その結果、チームはユニホームを毎年全員で新調しなければならない。3年前からいる選手も、昨年秋にはいったばかりの選手もいっしょだ。
メーカーの「戦略」は、町のチームばかりでなく、トップクラスのチームにも影響を与える。
JリーグはM社と独占契約を結び、全チームにこのメーカーのユニホームをリーグ戦で着用するよう義務づけている。制作担当者の努力でなかなかハイレベルなものがそろったが、結局は流行のプリント柄のものが圧倒的に多かった。
このプリント柄自体、メーカーの戦略そのものだ。世界的なスポーツメーカーのA社が肩から袖にかけて三本ラインを入れたユニホームでワールドカップ出場チームの多くをおさえたのが1974四年。80年代にはいると、このメーカーは次々と新デザインのユニホームを有力チームに着せ、市場をリードした。90年代にはいって、A社に対抗するように他のメーカーが出してきたのが、プリント柄のユニホームだった。
縫い合わせでなく、プリント柄にすることによって細かな色使いができるようになった。近くで見るときれいだ。しかしこれには大きな欠陥があった。フィールド上に散った選手のをスタンドから見ると、何色も細かく使ってあるため力強さがない。テレビでは色がにじんで見える。
Jリーグでは、マリノスとヴェルディのユニホームがとくにひどい。昨年五月の開幕戦は、パンツの色が同じ白だったこともあり、非常にみにくかった。小さなテレビではほとんど区別がつかなかっただろう。
92年の秋に採用された日本代表のユニホームもプリント柄。背中にまで柄があるので、背番号がとても見づらい。せめて背中は青一色にすべきだ。
最近のゴールキーパーのユニホームにいたっては、何色か、はっきり言うことさえ難しい。複雑極まりない色使いのプリント柄は、時に「フィールドプレーヤーとの識別」というGKユニホームの役割を無視したものになっている。
メーカーも、生き残るため、限られた数のプレーヤーに毎年ユニホームを買わせため必死なのだろうが、その結果起こっていることは、選手も、ファンも、誰も幸せにはしていない。
A社は、ことしのワールドカップで、また新しいデザインのユニホームを何種類か用意するという。それはドイツやアルゼンチンといった強豪や話題の新興チームに着られるだろう。
A社は審判用のユニホームも担当しているが、今回はピンクや白のプリント柄のユニホームを用意しているという。
カラフルになるのは悪いことではない。それで明るい気分になり、試合が楽しいものになればいうことはない。だがユニホームというのは、本来二つのチームを明確に分け、試合をスムーズに行うためのもの。それを忘れてはいけない。
シンプルなユニホームが好きだ--。
自分のチームの事情だけでではないことは、おわかりいただけるだろう。
(1994年2月1日=火)
1993年から東京新聞夕刊で週1回掲載しているサッカーコラムです。試合や選手のことだけではなく、サッカーというものを取り巻く社会や文化など、あらゆる事柄を題材に取り上げています。このサイトでは連載第1回から全ての記事をアーカイブ化して公開しています。最新の記事は水曜日の東京新聞夕刊をご覧ください。