サッカーの話をしよう
No.45 狭すぎる陸上競技場の芝面
92年11月のアジアカップでMF福田正博がゴールライン沿いに抜いて出ようとして転倒したことがあった。ゴールラインの外に足を踏みだしたときに、ぬれた人工芝で足をすべらせたのだ。
サッカーグラウンドの大きさは、公式の国際大会では縦105メートル、横68メートルということになっている。これはJリーグにもそのまま適用されている。
競技ルールの上では、グラウンドの大きさには大きな許容範囲が認められている。「縦90メートル以上120メートル以下、横45メートル以上90メートル以下」。ただし縦は常に横より長くなくてはならない。サッカーは世界に根づいた競技。グラウンドも各地の事情に合わせされている。古いスタジアムの多いイングランドのデータを見ると、かなりバラつきがあることがわかる。
しかし、質の高いプレーを保証するには、芝の状態がいいだけでなく、規定の大きさであることが要求される。組織的なチームプレーが高度化した今日のサッカーでは、縦が5メートル短いだけでプレーに大きな影響が出てしまうからだ。
ところが、日本では公式の大きさをとるのが難しいスタジアムが少なくない。多くのスタジアムが陸上競技場のフィールド部分、つまり400メートルトラックの内側をサッカーグラウンドとして使っている。その芝面自体が小さいからだ。
サッカーはグラウンドのラインの内側の分だけの芝では安全に試合をすることができない。ラインの外側に少なくとも1.5メートルほどの余裕がほしい。冒頭の福田の例のように回り込んで走るために外に踏みだすこともあるし、ライン際のプレーでライン外に転倒することも少なくないからだ。
東京の国立競技場は、芝面が縦106メートルしかない。正規の105メートルのグラウンドをとると両側に50センチしか残らないことになる。ゴールの中はフィールドの大きさには含まれてはいないが、その大半がタータンになってしまうのはいかにもかっこうがつかない。そのため、現在、国立競技場では縦102メートルでサッカーの試合をしている。
残念ながら、これが日本の「ナショナル・スタジアム」の現状なのだ。
日本の陸上競技場はすべて国立競技場に「右へならえ」だから、新しくつくられる競技場も同じようになる。ゴールラインの外に余裕がない場合には、見た目にいい人工芝を敷いてごまかしている。
外国の陸上競技場を見ると、規定のサッカーグラウンドの外に驚くほど十分な芝生がある。
専門家に聞くと、日本の陸上競技場のトラックはカーブがきつくない設計になっており、記録が出やすいという。芝面が小さいのはそのためもあるそうだ。
しかし何よりも問題なのは、陸上競技場を認定する日本陸上競技連盟が、サッカーなどの他競技を行うことをまったく想定に入れずに認定作業を行っていることだ。砲丸やハンマー投げのピットをフィールド内に入れたり、走り幅跳びの走路をトラックの内側に入れているのがその好例だ。
国土はせまく、スポーツにかける予算も大きくはない。自治体が収容人員の大きな競技場をつくるとき、多目的利用を考えどうしても陸上競技場になる。だが実際にはそれが「単目的」にしか向いていないとしたら、ひどい無駄づかいだ。
タッチラインの外に芝生が50センチしかない競技場。ゴールラインの外に人工芝を敷いて当然と思っている競技場。こうした競技場で試合を見ていると、きゅうくつな服を無理やり着せられているような気分になってしまう。
(1994年3月15日=火)
サッカーグラウンドの大きさは、公式の国際大会では縦105メートル、横68メートルということになっている。これはJリーグにもそのまま適用されている。
競技ルールの上では、グラウンドの大きさには大きな許容範囲が認められている。「縦90メートル以上120メートル以下、横45メートル以上90メートル以下」。ただし縦は常に横より長くなくてはならない。サッカーは世界に根づいた競技。グラウンドも各地の事情に合わせされている。古いスタジアムの多いイングランドのデータを見ると、かなりバラつきがあることがわかる。
しかし、質の高いプレーを保証するには、芝の状態がいいだけでなく、規定の大きさであることが要求される。組織的なチームプレーが高度化した今日のサッカーでは、縦が5メートル短いだけでプレーに大きな影響が出てしまうからだ。
ところが、日本では公式の大きさをとるのが難しいスタジアムが少なくない。多くのスタジアムが陸上競技場のフィールド部分、つまり400メートルトラックの内側をサッカーグラウンドとして使っている。その芝面自体が小さいからだ。
サッカーはグラウンドのラインの内側の分だけの芝では安全に試合をすることができない。ラインの外側に少なくとも1.5メートルほどの余裕がほしい。冒頭の福田の例のように回り込んで走るために外に踏みだすこともあるし、ライン際のプレーでライン外に転倒することも少なくないからだ。
東京の国立競技場は、芝面が縦106メートルしかない。正規の105メートルのグラウンドをとると両側に50センチしか残らないことになる。ゴールの中はフィールドの大きさには含まれてはいないが、その大半がタータンになってしまうのはいかにもかっこうがつかない。そのため、現在、国立競技場では縦102メートルでサッカーの試合をしている。
残念ながら、これが日本の「ナショナル・スタジアム」の現状なのだ。
日本の陸上競技場はすべて国立競技場に「右へならえ」だから、新しくつくられる競技場も同じようになる。ゴールラインの外に余裕がない場合には、見た目にいい人工芝を敷いてごまかしている。
外国の陸上競技場を見ると、規定のサッカーグラウンドの外に驚くほど十分な芝生がある。
専門家に聞くと、日本の陸上競技場のトラックはカーブがきつくない設計になっており、記録が出やすいという。芝面が小さいのはそのためもあるそうだ。
しかし何よりも問題なのは、陸上競技場を認定する日本陸上競技連盟が、サッカーなどの他競技を行うことをまったく想定に入れずに認定作業を行っていることだ。砲丸やハンマー投げのピットをフィールド内に入れたり、走り幅跳びの走路をトラックの内側に入れているのがその好例だ。
国土はせまく、スポーツにかける予算も大きくはない。自治体が収容人員の大きな競技場をつくるとき、多目的利用を考えどうしても陸上競技場になる。だが実際にはそれが「単目的」にしか向いていないとしたら、ひどい無駄づかいだ。
タッチラインの外に芝生が50センチしかない競技場。ゴールラインの外に人工芝を敷いて当然と思っている競技場。こうした競技場で試合を見ていると、きゅうくつな服を無理やり着せられているような気分になってしまう。
(1994年3月15日=火)
1993年から東京新聞夕刊で週1回掲載しているサッカーコラムです。試合や選手のことだけではなく、サッカーというものを取り巻く社会や文化など、あらゆる事柄を題材に取り上げています。このサイトでは連載第1回から全ての記事をアーカイブ化して公開しています。最新の記事は水曜日の東京新聞夕刊をご覧ください。