サッカーの話をしよう
No.48 GKはサッカー選手ではない?
この夏アメリカで行われるワールドカップで、国際サッカー連盟(FIFA)はまたひとつルール改正を実施することを決めた。選手交代をこれまでの2人でなく、3人使えるようにしたのだ。ただし3人目の交代は、ゴールキーパー(GK)を控えのGKと代えることだけが許される。この改正はどんな意味をもっているのだろうか。
FIFAが初めてワールドカップで選手交代を認めたのは70年のメキシコ大会。最初は負傷者で勝負が不公平にならないための配慮だった。だがいったん認められると、すぐ戦術的に使われることになる。
1試合にウイングを3人用意し、1人は交代選手として相手DFが疲れたころに送りだすという戦術を実施し、成功を納めたたのは西ドイツのシェーン監督。現在では、チームの戦術を変えるために使われる交代のほうが、負傷者や疲労の色の濃い選手を変える場合よりも多くなっている。
だが、ここでひとつ問題がある。規定枠の2人の交代を使ってしまってから負傷者が出たら、チームは10人で戦わなければならなくなるのだ。とくにGKがケガをすると、人数が減るうえに、フィールドプレーヤーのひとりにGKをさせなければならない。
オフト前日本代表監督は2人目の交代として中山をなぜ早く使わないかの理由を、「2人変えてしまったら、相手はGKを狙ってくる。それが怖いんだ」と説明していた。
今回のFIFAのルール改正は、チームや監督がそうした心配をすることなく2人の交代を使い、試合をおもしろくできるようにという配慮によるものだ。
もし通常の2人の交代を使った後にGKが退場処分(レッドカード)を受けた場合にはどうなるのだろうか。これまでのルールでは、こうした場合、フィールドプレーヤーのひとりを急造GKにするしかなかった。FIFAはこの場合にもサブのGKを第3の交代として使うことができると説明している。
とにかく本職のGKを入れて試合をやらせようというのがFIFAの考えのようだ。それによって、試合の興味を最後までもたせようというのだ。
しかしこのルールにはひとつの欠陥がある。第3の交代として入ることができる選手を、「控えのGK」に制限している点だ。
本来、サッカーのルールでは、GKは試合に出場する11人の選手のひとりにすぎない。ただし自陣ペナルティーエリア内では原則として手を使うことができるので、誰がGKであるかを主審に通告し、しかもその選手は他の選手と違う色のシャツを着なければならない。だから、主審に通告し、シャツを着替えるだけで、GKは試合中に何度でも出場中のフィールドプレーヤーと役割を交代することができる。
今回のルール改正では、GKはもはやサッカー選手とは認められていないかのように見える。メキシコのGKホルヘ・カンポスは、試合によってはFWとしてもプレーするという。ワールドカップレベルでもそうした選手がいるのに、まったく無視されている。
ワールドカップやプロの試合なら、このルール改正は前述したような効果を発揮するだろう。だがこれは一般のルールとして導入されるべきではないと思う。「サブGK」ということに関して無用な混乱を生む危険性が高いからだ。
2億の競技人口をもつサッカーのルールはシンプルでなくてはならない。無制限に3人目の交代を認めるか、これまでどおり2人の交代にとどめるか、決定すべきはこの一点だ。
(1994年4月5日=火)
FIFAが初めてワールドカップで選手交代を認めたのは70年のメキシコ大会。最初は負傷者で勝負が不公平にならないための配慮だった。だがいったん認められると、すぐ戦術的に使われることになる。
1試合にウイングを3人用意し、1人は交代選手として相手DFが疲れたころに送りだすという戦術を実施し、成功を納めたたのは西ドイツのシェーン監督。現在では、チームの戦術を変えるために使われる交代のほうが、負傷者や疲労の色の濃い選手を変える場合よりも多くなっている。
だが、ここでひとつ問題がある。規定枠の2人の交代を使ってしまってから負傷者が出たら、チームは10人で戦わなければならなくなるのだ。とくにGKがケガをすると、人数が減るうえに、フィールドプレーヤーのひとりにGKをさせなければならない。
オフト前日本代表監督は2人目の交代として中山をなぜ早く使わないかの理由を、「2人変えてしまったら、相手はGKを狙ってくる。それが怖いんだ」と説明していた。
今回のFIFAのルール改正は、チームや監督がそうした心配をすることなく2人の交代を使い、試合をおもしろくできるようにという配慮によるものだ。
もし通常の2人の交代を使った後にGKが退場処分(レッドカード)を受けた場合にはどうなるのだろうか。これまでのルールでは、こうした場合、フィールドプレーヤーのひとりを急造GKにするしかなかった。FIFAはこの場合にもサブのGKを第3の交代として使うことができると説明している。
とにかく本職のGKを入れて試合をやらせようというのがFIFAの考えのようだ。それによって、試合の興味を最後までもたせようというのだ。
しかしこのルールにはひとつの欠陥がある。第3の交代として入ることができる選手を、「控えのGK」に制限している点だ。
本来、サッカーのルールでは、GKは試合に出場する11人の選手のひとりにすぎない。ただし自陣ペナルティーエリア内では原則として手を使うことができるので、誰がGKであるかを主審に通告し、しかもその選手は他の選手と違う色のシャツを着なければならない。だから、主審に通告し、シャツを着替えるだけで、GKは試合中に何度でも出場中のフィールドプレーヤーと役割を交代することができる。
今回のルール改正では、GKはもはやサッカー選手とは認められていないかのように見える。メキシコのGKホルヘ・カンポスは、試合によってはFWとしてもプレーするという。ワールドカップレベルでもそうした選手がいるのに、まったく無視されている。
ワールドカップやプロの試合なら、このルール改正は前述したような効果を発揮するだろう。だがこれは一般のルールとして導入されるべきではないと思う。「サブGK」ということに関して無用な混乱を生む危険性が高いからだ。
2億の競技人口をもつサッカーのルールはシンプルでなくてはならない。無制限に3人目の交代を認めるか、これまでどおり2人の交代にとどめるか、決定すべきはこの一点だ。
(1994年4月5日=火)
1993年から東京新聞夕刊で週1回掲載しているサッカーコラムです。試合や選手のことだけではなく、サッカーというものを取り巻く社会や文化など、あらゆる事柄を題材に取り上げています。このサイトでは連載第1回から全ての記事をアーカイブ化して公開しています。最新の記事は水曜日の東京新聞夕刊をご覧ください。