サッカーの話をしよう

No.83 「会社」ではなく「クラブ」と呼ぼう

 Jリーグ各クラブの人びとと話していて、いつもひっかかることがある。
 「会社に帰ります」
 「×時に出社する」
 「社長と話した」
 こうした会話が頻繁に出てくるのだ。
 Jリーグのクラブはすべて「株式会社」になっている。規約にも、そうでなければならないと明記されている。だから「会社」であり、「社長」なのだ。

 かつての日本リーグからJリーグへの移行の最大のポイントは、チームの「独立法人化」だった。
 日本リーグ時代には大半のチームが企業に所属していた。スター選手をもち、試合がテレビで全国中継されてスポーツ紙の一面を飾っても、チームは社員の福利厚生のための運動部のひとつにすぎなかった。
 これでは「地域」に根ざした活動はできない。自治体や住民から本当に「自分たちのチーム」と思われるような、プロサッカークラブの理想の姿を実現することはできない。だから「独立した法人でなければならない」と決め、具体的には株式会社にしなければならないことにしたのだ。

 川淵三郎チェアマンによると、企業にこれを理解させるのが、Jリーグの発足にあたっていちばん難しい仕事だったという。
 だが、いったんその体制ができ上がり、すばらしい人気のもとスタートを切ると、そうした「理想の姿」はすっかり忘れ去られた。
 「親会社」から出向してきた「社員」がJリーグのクラブをせっせと日本型の会社組織に「整備」し、あっという間に普通の企業と同じにしてしまったのだ。そうしたなかで冒頭のような会話が出てくるのは、当然といえばあまりに当然のことだった。

 こうした状況を見かねたJリーグは、昨年「球団」でなく「クラブ」と呼ぶように通達し、メディアにも協力を求めた。だがその真意はまったく理解されず、うやむやのままに「球団事務所」で「入団発表」が行われている。
 「会社」より「球団」のほうがずいぶんましだが、Jリーグの理念はあくまで「地域に根ざした総合スポーツクラブの創設」。サッカーの国際性からも「クラブ」を徹底させるべきだ。「帰社する」のではなく、「クラブ事務所に戻って」ほしい。
 役職名は、会社をクラブと呼ぶほど簡単ではないかもしれない。役職名は単なる呼び名ではなく、組織のあり方自体を表現するものでもあるからだ。
 だが、Jリーグのクラブにはどう考えても「社長」はふさわしくない。

 大半のJリーグ・クラブは自治体の所有するスタジアムを最優先で使わせてもらっている。つまり地域の人びとの税金でつくった公共施設を、形のうえからは「一私企業」が独占的に使っているのだ。
 しかも、その「私企業」は地域の人びとからの入場料収入と、スタジアムが満員になってくれるからこそのスポンサー収入で運営されているのだ。
 とすれば、クラブは組織が「株式会社」だといっても、通常の企業とは違うのだということを意識しなければならない。より公共性の高い組織であうことを自覚しなければならない。
 簡単にいえば、Jリーグのクラブはホームタウンの地域の人びと全体のものということなのだ。
 だからこそ、「会社」ではなく「クラブ」であり、「社長」ではなく「会長」と呼ぶべきであるはずだ。
 自分たちのやっている事業が地域の人びとのためのものであることを、Jリーグ各クラブの役員とスタッフはもういちどよく考え直す必要がある。

(1994年12月13日=火)
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1993年から東京新聞夕刊で週1回掲載しているサッカーコラムです。試合や選手のことだけではなく、サッカーというものを取り巻く社会や文化など、あらゆる事柄を題材に取り上げています。このサイトでは連載第1回から全ての記事をアーカイブ化して公開しています。最新の記事は水曜日の東京新聞夕刊をご覧ください。

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