サッカーの話をしよう

No.95 3人目の交代をどう使うか

 先週水曜日のJリーグ第2節マリノス×ヴェルディ戦、前半で0−4と思わぬリードを許したヴェルディのネルシーニョ監督はハーフタイムに一気に3人の選手を入れ替えて巻き返しを狙った。
 第1節のサンフレッチェ×セレッソ戦では、延長後半に3人目の交代として投入されたセレッソの山橋が最初のボールタッチでVゴールを奪った。
 今季、Jリーグにはいろいろな変化があったが、地味ながら試合に大きな影響を及ぼすと思われるのが、「3人目の交代」だ。

 FIFAは3月はじめに選手交代を昨年改正された「2人プラスGK」から、「ポジションを問わずに3人」にするルール改正を発表した。これは7月1日から世界中で施行される。
 ところがJリーグ第1ステージは3月18日から7月22日まで。途中切り換えになってしまう。そこでFIFAの許可を得て開幕から「新ルール」を適用することになったのだ。

 「選手交代」はサッカーの歴史では比較的新しいルールだ。ケガなどの理由を伴わない交代が国際大会で初めて認められたのは68年のメキシコ・オリンピックのこと。1試合に2人までの交代が許された。
 この大会、日本は渡辺正を効果的に交代で使い、成功を収めた。
 同じメキシコでの70年ワールドカップでは、西ドイツのシェーン監督が交代を「戦術的」に使った。後半相手DFが疲れたころにウイング選手を代えてそこから攻め崩したのだ。
 79年に東京で行われたワールドユース選手権の決勝戦では、アルゼンチンのメノッティ監督が「マジック」を見せた。後半なかばに1点先制されると、ためらうことなく2人の選手を代え、試合の流れを変えて逆転勝ちに導いたのだ。

 日本代表の加茂周監督はぎりぎりまでがまんする。周囲が「あの選手は調子が悪いからもう代えればいいのに」と思っても、なかなか代えない。いったん選んだ選手に、「お前を信じているからがんばれ」ということを示して力を発揮させるタイプなのだ。
 どちらがいいということではない。いまや選手交代はゲームのなかで戦術的に重要な意味をもつものであり、その使い方に監督の個性や能力がはっきりと現れるものなのだ。

 その交代がこれまでの2人から3人になった。
 「2人」と「3人」では大きく違う。試合中にケガをする可能性を考えれば、「最後のひとり」はそのためにとっておかなければならない。だから、これまで2人目の交代を使うときにも、残り10分間を切ってからが圧倒的に多かった。
 それが2人までは安心して代えられるようになったのだ。3人目は「勝負」というときに使えばいい。

 セレッソのエミリオ監督はこの新ルールを最大限活用しようと研究してきたように見える。レイソルのゼ・セルジオ監督は2−2の同点で迎えた試合の終盤に一気にふたりの交代を送り出して勝負に出た。
 監督たちの頭脳と決断力が発揮される瞬間。ファンにとっても、交代の出しどころを考えながら試合を見る楽しみが増えた。

 ところで、今季最初に三人目の交代を使ったのは、つまり世界で初めて新ルールに従って3人目を使ったのはエスパルスの宮本征勝監督であり、その最初の3人目となったのは、朝倉徳明選手だった。
 3月18日のJリーグ開幕日、3人の交代を使ったのは3チーム。そのうち延長にはいる前に3人目を出したのはエスパルスだけ。対レイソル戦、後半30分のことだった。

(1995年3月28日)
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