サッカーの話をしよう

No.96 若手が主役の95Jリーグ

 95年Jリーグ第1ステージの序盤戦、大物の外国人選手たちがその名声に恥じない活躍を見せて話題を独占している。
 なかでも鹿島アントラーズのジョルジーニョは「世界最高の右バック」といわれた男。アントラーズでは第2節から守備的MFになったが、正確な球出しや強烈なシュートは本物の「ワールドクラス」であることを証明している。
 しかし私にとって今シーズンの最大の驚きは外国人ではない。20歳前後の若い日本人選手が、早くもレギュラーポジションをつかみ、すばらしい活躍を見せているのだ。

 その筆頭は、3年目の前園真聖(横浜フリューゲルス)である。
 すでに昨年、ファルカン監督によって日本代表に選ばれ、ことしは完全なエースとして2月のダイナスティーカップで日本の攻撃をリードした。小柄だがドリブルの切れ味は抜群。相手のペナルティーエリアに勇敢にはいっていくプレーはJリーグでも存分に発揮されている。
 フリューゲルスにはジーニョという「南米ベストイレブン」の攻撃的MFがいる。しかしそれほどの選手とも対等にプレーする姿は本当に頼もしい。

 ジェフ市原のDF鈴木和裕、横浜マリノスのDF松田直樹はともにこの3月に高校を卒業したばかり。しかししっかりとした守備と落ちつきのあるプレーで高い評価を得ている。
 プロであるJリーグと高校生の最大の差は体力面にある。「超高校級」といわれる選手でも、Jリーグの選手と比べると筋力はまだまだ。数年間かけて体づくりをしてようやく試合に出場できるというのが、これまでの常識だった。
 しかしこの鈴木や松田、そして昨シーズンの序盤に大暴れしたジェフ市原のFW城彰二らは、生まれつきの強靱な筋力で1年目の春から大活躍している。
 鈴木はスピードあふれる攻撃参加と正確なセンタリングが売り物の右サイドバック。本来はセンターバックながらマリノスでは右サイドバックでプレーしている松田は、しっかりとした守備でアルゼンチン人のソラリ監督から高い評価を得ている。

 先週の水曜には、私は日本サッカーの新たな「ホープ」を発見した。ジェビロ磐田のMF名波浩だ。こちらは順天堂大学を卒業したばかりの22歳だ。
 高校(清水商業)時代から左利きのテクニシャンとして知られていたが、以前は線が細く、パスやシュートのセンスをハードなプロのゲームで生かせるだろうかと気にかけていた。
 しかしジュビロの左サイドを中心にプレーする名波は、活動量も豊富で、しかもハイレベルのテクニックとゲームセンスをJリーグのゲームのなかで見事に生かしきっていた。遠くない将来に日本代表の座を射止めるに違いない。

 東京の国立競技場では、3月25日の横浜フリューゲルス×横浜マリノス戦で3万0609人というJリーグ最少の観客数を記録した。入場券が売り切れずに残っている試合もかなりあると聞く。「Jリーグのブームは終わった」と、あちこちで書かれている。
 しかし私は逆に、「Jリーグの時代」がいよいよ始まろうとしているのを、ひしひしと感じる。
 ベテランなど不要だというのではない。ただ、プロ時代にプロになることを当然と思ってはいってきた選手たち、「新世代」の才能あふれるプロたちが各チームの中心を占めるようになれば日本人が主役のJリーグができる。その時代がけっして遠くないことを、今リーグで強く感じるのだ。

(1995年4月4日)
クリエイティブ・コモンズ・ライセンス

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1993年から東京新聞夕刊で週1回掲載しているサッカーコラムです。試合や選手のことだけではなく、サッカーというものを取り巻く社会や文化など、あらゆる事柄を題材に取り上げています。このサイトでは連載第1回から全ての記事をアーカイブ化して公開しています。最新の記事は水曜日の東京新聞夕刊をご覧ください。

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