サッカーの話をしよう
No.97 新しいFIFAの判定基準
最近到着した南米サッカー連盟の公式ニュースに興味深い記事があった。
1月にボリビアで行われたワールドユース南米予選では、全22試合で警告が延べ124人、退場が22人も出た。数字だけを見ると暴力的な大会だったように思われるが、実際には非常にフェアな大会だったというのだ。
黄色や赤のカードが乱れ飛んだのは、昨年のワールドカップで示された国際サッカー連盟(FIFA)の審判基準にしっかりと従ったためだという。
サッカーがこれからも愛されるスポーツであり続けるために、FIFAは「フェアプレーキャンペーン」を展開している。相手を傷つける危険なファウル、時間かせぎ、FKのときに離れない、ボールを投げてしまうなど、これまで当然のように行われてきた行為を根絶しない限り、サッカーに将来はない。
こうしたファウルや行為に厳然たる態度をとり、根絶するのが、今日のレフェリーに課せられた責務。その現れがこの南米予選だったというのだ。
選手たちはレフェリーに文句をいうこともないし、互いにつかみ合ったり、険悪な空気になったこともなかった。しかしこれまで黙認されてきたファウルや行為は、そのまま出てしまった。それを「悪いものは悪い」とはっきり示した結果が、22枚のレッドカードだったわけだ。
実は、今季のJリーグも同じような状況にある。
第6節を終わって、1つの反則で退場になったケースが8、1試合に2枚のイエローカードを受けて退場になったのが3件あった。「22試合で22のレッドカード」ほど過激ではないが、昨シーズンまでに比べると非常に多い。とくにアルゼンチン人のクレスピ主審は5試合で合計4人もの退場(うち3人は一発退場)を出した。「厳しすぎる」と批判も多い。
しかしクレスピ氏はいつもプレーの近くで判定を下している。一発で退場にした3つのケースは、いずれも相手にケガを負わせかねない無謀で危険なファウルに対してのものだった。クレスピ氏はそれをはっきりと確認していた。
これまで、日本ではこうしたファウルに対してイエローカード、つまり警告処分で済ませてきた。しかし昨年FIFAが示した指針は「レッドカード」であったはずだ。ワールドカップ後、きちんと解釈の統一をしないまま昨年の後半を過ごしてしまった結果、日本では「これまでと変わらない」基準でレフェリングが行われてきた。新しい基準に従っているクレスピ氏とくい違うのは当然だ。
まず第一に、「新しいFIFA基準」の解釈徹底をしなければならない。
イエローカードやレッドカードの多さに、「今季もフェアプレーは望めない」という声も聞くが、私の目には、選手たちの態度はずいぶん良くなっているように見える。少なくとも、レフェリーに対する文句は大幅に減った。
しかし時間かせぎや壁から離れない選手はまだまだ少なくない。ルールの理解不足や状況判断の遅れが原因で、無謀で危険な反則を繰り返す選手も多い。レフェリーたちはもっとしっかりと黄色や赤のカードを出して「新基準」を示さなければならない。
これは選手やチームばかりでなく、レフェリーたちにとっても大きな苦痛を伴うことに違いない。しかしそれを乗り越えれば、短期間のうちにサッカーが変わる。もっとクリーンで美しいゲームになる。
この苦痛を避けて通ることはできない。勇気をもって笛を吹いてほしい。
(1995年4月11日)
1月にボリビアで行われたワールドユース南米予選では、全22試合で警告が延べ124人、退場が22人も出た。数字だけを見ると暴力的な大会だったように思われるが、実際には非常にフェアな大会だったというのだ。
黄色や赤のカードが乱れ飛んだのは、昨年のワールドカップで示された国際サッカー連盟(FIFA)の審判基準にしっかりと従ったためだという。
サッカーがこれからも愛されるスポーツであり続けるために、FIFAは「フェアプレーキャンペーン」を展開している。相手を傷つける危険なファウル、時間かせぎ、FKのときに離れない、ボールを投げてしまうなど、これまで当然のように行われてきた行為を根絶しない限り、サッカーに将来はない。
こうしたファウルや行為に厳然たる態度をとり、根絶するのが、今日のレフェリーに課せられた責務。その現れがこの南米予選だったというのだ。
選手たちはレフェリーに文句をいうこともないし、互いにつかみ合ったり、険悪な空気になったこともなかった。しかしこれまで黙認されてきたファウルや行為は、そのまま出てしまった。それを「悪いものは悪い」とはっきり示した結果が、22枚のレッドカードだったわけだ。
実は、今季のJリーグも同じような状況にある。
第6節を終わって、1つの反則で退場になったケースが8、1試合に2枚のイエローカードを受けて退場になったのが3件あった。「22試合で22のレッドカード」ほど過激ではないが、昨シーズンまでに比べると非常に多い。とくにアルゼンチン人のクレスピ主審は5試合で合計4人もの退場(うち3人は一発退場)を出した。「厳しすぎる」と批判も多い。
しかしクレスピ氏はいつもプレーの近くで判定を下している。一発で退場にした3つのケースは、いずれも相手にケガを負わせかねない無謀で危険なファウルに対してのものだった。クレスピ氏はそれをはっきりと確認していた。
これまで、日本ではこうしたファウルに対してイエローカード、つまり警告処分で済ませてきた。しかし昨年FIFAが示した指針は「レッドカード」であったはずだ。ワールドカップ後、きちんと解釈の統一をしないまま昨年の後半を過ごしてしまった結果、日本では「これまでと変わらない」基準でレフェリングが行われてきた。新しい基準に従っているクレスピ氏とくい違うのは当然だ。
まず第一に、「新しいFIFA基準」の解釈徹底をしなければならない。
イエローカードやレッドカードの多さに、「今季もフェアプレーは望めない」という声も聞くが、私の目には、選手たちの態度はずいぶん良くなっているように見える。少なくとも、レフェリーに対する文句は大幅に減った。
しかし時間かせぎや壁から離れない選手はまだまだ少なくない。ルールの理解不足や状況判断の遅れが原因で、無謀で危険な反則を繰り返す選手も多い。レフェリーたちはもっとしっかりと黄色や赤のカードを出して「新基準」を示さなければならない。
これは選手やチームばかりでなく、レフェリーたちにとっても大きな苦痛を伴うことに違いない。しかしそれを乗り越えれば、短期間のうちにサッカーが変わる。もっとクリーンで美しいゲームになる。
この苦痛を避けて通ることはできない。勇気をもって笛を吹いてほしい。
(1995年4月11日)
1993年から東京新聞夕刊で週1回掲載しているサッカーコラムです。試合や選手のことだけではなく、サッカーというものを取り巻く社会や文化など、あらゆる事柄を題材に取り上げています。このサイトでは連載第1回から全ての記事をアーカイブ化して公開しています。最新の記事は水曜日の東京新聞夕刊をご覧ください。