サッカーの話をしよう
No.124 アジアクラブ選手権軽視の日本
10月に私は貴重な体験をした。日本のクラブとアジアのクラブの対戦を4つも見ることができたことだ。
ヴェルディが出場したアジアクラブ選手権のイースタン(香港)戦とクレセント(パキスタン)戦、フリューゲルスとベルマーレが出場したアジアカップウィナーズ選手権のレンジャーズ(香港)戦とサバ(マレーシア)戦だ。
相手はアジアの東半分のチーム。Jリーグの激戦で鍛えられた日本チームの実力は一段も二段も上で、日程などの関係からベルマーレ以外はJリーグに出場していない選手を中心にしたチームで出場しながら、いずれも楽勝の内容だった。
だが一方で、これらの試合は現在Jリーグのクラブがかかえる問題点を浮き彫りにするものだった。
その第一は観客動員。減ってきたとはいえ、入場券のほとんどが自動的に売れてしまうJリーグの試合に比べ、それ以外の試合は驚くほど売れない。入場券を買ってもらい、なんとかたくさんの観客の前で試合をしようという努力をまったく怠っているからだ。
平均観客数はわずか3600人あまり。空席が目立つどころか、スタンドにパラパラとしか観客がいない状況は、まるで10年前の日本リーグ時代を見ているようだった。
入場券を売る努力を放棄したままであれば、これが明日のJリーグの姿ではないと誰が言えるだろう。
第二の問題点は、Jリーグのときと同じような大げさな場内アナウンスと、一部サポーターの勘違いだ。ガラガラのスタンドに向かって、オーバーに選手を紹介し、ゴールを絶叫するアナウンス。相手チームのプレーにいちいち憎悪を剥き出しにするサポーター。根源は共通している。
それは、相手が誰かという「想像力」の欠如だ。
たしかに、試合相手はライバルだが、同時に、日本の強豪と戦うためにはるばるやってきた「勇者」でもあるはず。まずは敬意を払うべきではないか。
自クラブだけを大げさに持ち上げる場内アナウンスも、相手にひたすらブーイングを送るサポーターも、そうした心はかけらも見られなかった。残念ながら、それは4試合のすべてで共通したことだった。
もちろん、これは国際試合に限った話ではない。少し前にJリーグに吹き荒れたサポーターを中心としたトラブルは、こうした「精神の貧弱さ」が醸成したスタジアムの雰囲気から生みだされたものだ。
等々力でのヴェルディ×イースタン戦では、ひどく醜いものに出合った。試合前ゴール裏でウォーミングアップを始めたイースタンの選手たちのすぐ側に数人のヴェルディ・サポーターが寄っていき、威嚇し、嘲笑するような声を発したのだ。アジアサッカー連盟から派遣されてきたシンガポール人のマッチコミッサリーが、たまりかねて、制止をうながすほどだった。
しかし、最後の平塚のゲームで、私は少しばかり救われた気持ちになった。ベッチーニョに率いられたベルマーレがスピードでサバを圧倒し、5−0の勝利。だが試合終了直後、場内に流れたのは優しい女声のこんなアナウンスだった。
「健闘されましたマレーシア・サバの皆様に、大きな拍手をお送りください」
引き揚げるサバのイレブンに、メインスタンドから温かい拍手が送られた。選手たちは立ち止まり、大きく手を振って笑顔でスタンド下に消えていった。
一方、ベルマーレの選手たちはそれを見送ってからフィールドの中央に並び、スタンドに手を上げた。当然、前にも増して大きな拍手が起こった。
(1995年11月7日)
ヴェルディが出場したアジアクラブ選手権のイースタン(香港)戦とクレセント(パキスタン)戦、フリューゲルスとベルマーレが出場したアジアカップウィナーズ選手権のレンジャーズ(香港)戦とサバ(マレーシア)戦だ。
相手はアジアの東半分のチーム。Jリーグの激戦で鍛えられた日本チームの実力は一段も二段も上で、日程などの関係からベルマーレ以外はJリーグに出場していない選手を中心にしたチームで出場しながら、いずれも楽勝の内容だった。
だが一方で、これらの試合は現在Jリーグのクラブがかかえる問題点を浮き彫りにするものだった。
その第一は観客動員。減ってきたとはいえ、入場券のほとんどが自動的に売れてしまうJリーグの試合に比べ、それ以外の試合は驚くほど売れない。入場券を買ってもらい、なんとかたくさんの観客の前で試合をしようという努力をまったく怠っているからだ。
平均観客数はわずか3600人あまり。空席が目立つどころか、スタンドにパラパラとしか観客がいない状況は、まるで10年前の日本リーグ時代を見ているようだった。
入場券を売る努力を放棄したままであれば、これが明日のJリーグの姿ではないと誰が言えるだろう。
第二の問題点は、Jリーグのときと同じような大げさな場内アナウンスと、一部サポーターの勘違いだ。ガラガラのスタンドに向かって、オーバーに選手を紹介し、ゴールを絶叫するアナウンス。相手チームのプレーにいちいち憎悪を剥き出しにするサポーター。根源は共通している。
それは、相手が誰かという「想像力」の欠如だ。
たしかに、試合相手はライバルだが、同時に、日本の強豪と戦うためにはるばるやってきた「勇者」でもあるはず。まずは敬意を払うべきではないか。
自クラブだけを大げさに持ち上げる場内アナウンスも、相手にひたすらブーイングを送るサポーターも、そうした心はかけらも見られなかった。残念ながら、それは4試合のすべてで共通したことだった。
もちろん、これは国際試合に限った話ではない。少し前にJリーグに吹き荒れたサポーターを中心としたトラブルは、こうした「精神の貧弱さ」が醸成したスタジアムの雰囲気から生みだされたものだ。
等々力でのヴェルディ×イースタン戦では、ひどく醜いものに出合った。試合前ゴール裏でウォーミングアップを始めたイースタンの選手たちのすぐ側に数人のヴェルディ・サポーターが寄っていき、威嚇し、嘲笑するような声を発したのだ。アジアサッカー連盟から派遣されてきたシンガポール人のマッチコミッサリーが、たまりかねて、制止をうながすほどだった。
しかし、最後の平塚のゲームで、私は少しばかり救われた気持ちになった。ベッチーニョに率いられたベルマーレがスピードでサバを圧倒し、5−0の勝利。だが試合終了直後、場内に流れたのは優しい女声のこんなアナウンスだった。
「健闘されましたマレーシア・サバの皆様に、大きな拍手をお送りください」
引き揚げるサバのイレブンに、メインスタンドから温かい拍手が送られた。選手たちは立ち止まり、大きく手を振って笑顔でスタンド下に消えていった。
一方、ベルマーレの選手たちはそれを見送ってからフィールドの中央に並び、スタンドに手を上げた。当然、前にも増して大きな拍手が起こった。
(1995年11月7日)
1993年から東京新聞夕刊で週1回掲載しているサッカーコラムです。試合や選手のことだけではなく、サッカーというものを取り巻く社会や文化など、あらゆる事柄を題材に取り上げています。このサイトでは連載第1回から全ての記事をアーカイブ化して公開しています。最新の記事は水曜日の東京新聞夕刊をご覧ください。