サッカーの話をしよう
No.155 16チームのワールドカップも悪くない
「16チームのワールドカップも悪くない」
あらためてそう感じたヨーロッパ選手権だった。
4年に一度のこの決勝大会は、80年に8チームになるまで4チームで戦われていた。準決勝以降だけの質素な大会だった。
80年から8チーム参加の大がかりな大会となり、今回は欧州サッカー連盟の加盟国拡大に伴って16チームとなった。数だけではない。ワールドカップ、オリンピックに次ぐ世界で第3のスポーツイベントに急成長したのだ。
31試合で動員した観客総数は140万人。テレビ放映は94年ワールドカップを6カ国上回る194カ国に達し、視聴者総数は69億人。総収入は94年ワールドカップに近い237億円に上り、うち89億円が規定に従い参加チームに分配される。少ないチームでも3試合で3億5000万円。ワールドカップの1.5倍の金額だ。
数字を見れば、この大会はある意味で「ワールドカップに肩を並べた」と言えるのではないか。そのうえで、「16チームのワールドカップも悪くない」と思うのだ。
2002年ワールドカップが日韓の「共同開催」になって、いろいろと難しい問題が予想される。日本国内の問題は、会場に予定していた15もの都市の扱いだ。すでに各自治体からはチーム数を増やしてほしいなどの要望が出ている。
だが、チーム数をこれ以上増やすことも、大会方式を変えることによって試合数を増やすことも、非常に難しいと私は考えている。
いまや世界のサッカーは飽和状態にある。できるだけいい試合をさせるためにクラブと代表チームの日程は厳しく決められ、新たな日程を入れる隙間はほとんどない。ヨーロッパ選手権もワールドカップも、そうした日程のなかに組み入れられている。だから大会期間は1カ月を大きく超過することはできないのだ。
同時に、大会方式を変えて試合数を増やすことも難しい。フランス大会では決勝は大会7試合目。これがいかに過酷な日程であるかは、過去2回の決勝の試合内容が証明している。両チームとも極度の疲労でとても「世界一を決める試合」とはいえないレベル。「1カ月間で7試合」はすでに限界を超えているのだ。
結局、2002年大会は98年フランス大会と同様の大会形式、試合日程にせざるをえない。すなわち、32チームが参加し、4チームずつ8グループで1回戦総当たりを行い、各グループ上位2チームが出て「ベスト16」からの決勝トーナメントを行うのだ。
そしてその「半分」を日本で開催するということになれば、すなわち「16チームのワールドカップ」ということになる。今回のヨーロッパ選手権とまったく同じ形式と規模である。
今回、イングランドでは8都市が会場となった。4都市が3試合、2都市が4試合、1都市が5試合、そしてロンドンだけが6試合を開催した。それを十五都市でやるのは無駄が多くなるが、これまでの各自治体の取り組みを考えれば簡単に「あきらめなさい」と言えるようなことではない。
だが、ワールドカップの開催は、日本が勝手に大会形式を決めるようなものではないということは忘れてはならない。まず参加チーム数も大会形式も期間も決まったワールドカップというものがあって、それをどう運営していくかだけが日本に委託されるのだ。
16チームのワールドカップはけっして悪いものではない。それを前提に、予定自治体との誠実な話し合いをすることを、「準備委員会」に期待したい。
(1996年7月1日)
あらためてそう感じたヨーロッパ選手権だった。
4年に一度のこの決勝大会は、80年に8チームになるまで4チームで戦われていた。準決勝以降だけの質素な大会だった。
80年から8チーム参加の大がかりな大会となり、今回は欧州サッカー連盟の加盟国拡大に伴って16チームとなった。数だけではない。ワールドカップ、オリンピックに次ぐ世界で第3のスポーツイベントに急成長したのだ。
31試合で動員した観客総数は140万人。テレビ放映は94年ワールドカップを6カ国上回る194カ国に達し、視聴者総数は69億人。総収入は94年ワールドカップに近い237億円に上り、うち89億円が規定に従い参加チームに分配される。少ないチームでも3試合で3億5000万円。ワールドカップの1.5倍の金額だ。
数字を見れば、この大会はある意味で「ワールドカップに肩を並べた」と言えるのではないか。そのうえで、「16チームのワールドカップも悪くない」と思うのだ。
2002年ワールドカップが日韓の「共同開催」になって、いろいろと難しい問題が予想される。日本国内の問題は、会場に予定していた15もの都市の扱いだ。すでに各自治体からはチーム数を増やしてほしいなどの要望が出ている。
だが、チーム数をこれ以上増やすことも、大会方式を変えることによって試合数を増やすことも、非常に難しいと私は考えている。
いまや世界のサッカーは飽和状態にある。できるだけいい試合をさせるためにクラブと代表チームの日程は厳しく決められ、新たな日程を入れる隙間はほとんどない。ヨーロッパ選手権もワールドカップも、そうした日程のなかに組み入れられている。だから大会期間は1カ月を大きく超過することはできないのだ。
同時に、大会方式を変えて試合数を増やすことも難しい。フランス大会では決勝は大会7試合目。これがいかに過酷な日程であるかは、過去2回の決勝の試合内容が証明している。両チームとも極度の疲労でとても「世界一を決める試合」とはいえないレベル。「1カ月間で7試合」はすでに限界を超えているのだ。
結局、2002年大会は98年フランス大会と同様の大会形式、試合日程にせざるをえない。すなわち、32チームが参加し、4チームずつ8グループで1回戦総当たりを行い、各グループ上位2チームが出て「ベスト16」からの決勝トーナメントを行うのだ。
そしてその「半分」を日本で開催するということになれば、すなわち「16チームのワールドカップ」ということになる。今回のヨーロッパ選手権とまったく同じ形式と規模である。
今回、イングランドでは8都市が会場となった。4都市が3試合、2都市が4試合、1都市が5試合、そしてロンドンだけが6試合を開催した。それを十五都市でやるのは無駄が多くなるが、これまでの各自治体の取り組みを考えれば簡単に「あきらめなさい」と言えるようなことではない。
だが、ワールドカップの開催は、日本が勝手に大会形式を決めるようなものではないということは忘れてはならない。まず参加チーム数も大会形式も期間も決まったワールドカップというものがあって、それをどう運営していくかだけが日本に委託されるのだ。
16チームのワールドカップはけっして悪いものではない。それを前提に、予定自治体との誠実な話し合いをすることを、「準備委員会」に期待したい。
(1996年7月1日)
1993年から東京新聞夕刊で週1回掲載しているサッカーコラムです。試合や選手のことだけではなく、サッカーというものを取り巻く社会や文化など、あらゆる事柄を題材に取り上げています。このサイトでは連載第1回から全ての記事をアーカイブ化して公開しています。最新の記事は水曜日の東京新聞夕刊をご覧ください。