サッカーの話をしよう
No.162 強い日本代表 次の壁
強くなった。日本代表チームである。
8月25日、大阪にウルグアイ代表を迎えた試合は5−3の勝利。4−1とリードした後、主力を交代させたため2連続失点したが、最後はダメ押しの5点目を決め、堂々たる勝利だった。
「加茂日本」はことし7試合を戦い、5勝1分け1敗。総得点20、総失点11。勝った相手にポーランド、ユーゴスラビア、メキシコ、ウルグアイという世界の強豪ナショナルチームが並んでいるのは驚くばかり。ほんの5年ほど前には、対戦してもらうことさえ大変な相手だったのだ。
ウルグアイ戦では、1年ほどオリンピック代表に専念していた前園真聖(横浜フリューゲルス)が復帰、攻撃が一気に多彩になって見事な突破が次々と繰り出された。
日本代表はこの後、9月11日にウズベキスタン戦(東京)、10月13日にチュニジア戦(神戸)をこなし、12月のアジアカップ(アラブ首長国連邦)に臨む。92年秋に広島で行われた前回大会で日本が「アジア初制覇」を唱えた記念すべき大会。「タイトル防衛」の戦いだ。
他国の状況は不明な点も多いが、単純に戦力だけの話ならば、日本は文句なく優勝候補の筆頭に挙げられるはずだ。「連覇」の可能性は十分といえる。
だが、ことしにはいってからの日本代表のあまりの強さは、逆にひとつの不安を覚えさせる。それは、日本代表が伸びていく過程で避けて通ることのできない「壁」の存在だ。
これまで、「加茂日本」が戦った相手の大半は強豪で、強気に攻めのサッカーをしてきた。攻めてくる相手を前でつかまえ、奪ったボールを素早く攻撃につなげようというのが現在の日本代表の基本的なプレースタイル。相手が「強豪」であったことで、その戦術は見事にはまった。ことしの「快進撃」には、そうした背景があった。
だが、相手が日本を「格上」ととらえると、状況は大きく変わる。今後アジアのチームとの対戦では、多くの相手が日本に対して守りを固めるサッカーになるだろう。自陣に引いて厚い守備組織を敷き、速攻を狙ってくるだろう。日本のオリンピック代表がブラジルと対戦したときの戦法。相手の強さを認め、なんとかひと泡吹かせてやろうという狙いだ。
順調に力を伸ばし、世界の強豪に伍して戦うことができるようになった「加茂日本」。だが、少し力の落ちるチームがこのように割り切って守備を固めてくるゲームの経験はない。
加茂監督は、就任当初から「アジアの予選を勝ち抜くには、守りを固めてくる相手を攻め崩せるようにならなければならない」と語っていた。そのために、中盤の守備組織を強化し、そこから相手が帰陣する前に攻め込むチーム戦術を徹底してきた。
だが実際に守備を固める相手に対したときにその戦術がどこまで機能するか、それは未知数だ。
9月11日に東京の国立競技場で対戦するウズベキスタンは、固い守備とカウンターアタックで94年広島アジア大会を制覇したチーム。日本にとってはまず最初の「壁」となる。この相手にどういうふうに攻撃を組み立て、守備組織を崩すことができるか、そして相手のカウンターアタックをうまく処理できるか。
地味な相手ではあるが、アジア予選を突破してフランス・ワールドカップ出場を最大のターゲットとする日本代表にとってはこれまでの強豪との対戦よりずっと重要な意味をもった試合なのだ。
(1996年9月2日)
8月25日、大阪にウルグアイ代表を迎えた試合は5−3の勝利。4−1とリードした後、主力を交代させたため2連続失点したが、最後はダメ押しの5点目を決め、堂々たる勝利だった。
「加茂日本」はことし7試合を戦い、5勝1分け1敗。総得点20、総失点11。勝った相手にポーランド、ユーゴスラビア、メキシコ、ウルグアイという世界の強豪ナショナルチームが並んでいるのは驚くばかり。ほんの5年ほど前には、対戦してもらうことさえ大変な相手だったのだ。
ウルグアイ戦では、1年ほどオリンピック代表に専念していた前園真聖(横浜フリューゲルス)が復帰、攻撃が一気に多彩になって見事な突破が次々と繰り出された。
日本代表はこの後、9月11日にウズベキスタン戦(東京)、10月13日にチュニジア戦(神戸)をこなし、12月のアジアカップ(アラブ首長国連邦)に臨む。92年秋に広島で行われた前回大会で日本が「アジア初制覇」を唱えた記念すべき大会。「タイトル防衛」の戦いだ。
他国の状況は不明な点も多いが、単純に戦力だけの話ならば、日本は文句なく優勝候補の筆頭に挙げられるはずだ。「連覇」の可能性は十分といえる。
だが、ことしにはいってからの日本代表のあまりの強さは、逆にひとつの不安を覚えさせる。それは、日本代表が伸びていく過程で避けて通ることのできない「壁」の存在だ。
これまで、「加茂日本」が戦った相手の大半は強豪で、強気に攻めのサッカーをしてきた。攻めてくる相手を前でつかまえ、奪ったボールを素早く攻撃につなげようというのが現在の日本代表の基本的なプレースタイル。相手が「強豪」であったことで、その戦術は見事にはまった。ことしの「快進撃」には、そうした背景があった。
だが、相手が日本を「格上」ととらえると、状況は大きく変わる。今後アジアのチームとの対戦では、多くの相手が日本に対して守りを固めるサッカーになるだろう。自陣に引いて厚い守備組織を敷き、速攻を狙ってくるだろう。日本のオリンピック代表がブラジルと対戦したときの戦法。相手の強さを認め、なんとかひと泡吹かせてやろうという狙いだ。
順調に力を伸ばし、世界の強豪に伍して戦うことができるようになった「加茂日本」。だが、少し力の落ちるチームがこのように割り切って守備を固めてくるゲームの経験はない。
加茂監督は、就任当初から「アジアの予選を勝ち抜くには、守りを固めてくる相手を攻め崩せるようにならなければならない」と語っていた。そのために、中盤の守備組織を強化し、そこから相手が帰陣する前に攻め込むチーム戦術を徹底してきた。
だが実際に守備を固める相手に対したときにその戦術がどこまで機能するか、それは未知数だ。
9月11日に東京の国立競技場で対戦するウズベキスタンは、固い守備とカウンターアタックで94年広島アジア大会を制覇したチーム。日本にとってはまず最初の「壁」となる。この相手にどういうふうに攻撃を組み立て、守備組織を崩すことができるか、そして相手のカウンターアタックをうまく処理できるか。
地味な相手ではあるが、アジア予選を突破してフランス・ワールドカップ出場を最大のターゲットとする日本代表にとってはこれまでの強豪との対戦よりずっと重要な意味をもった試合なのだ。
(1996年9月2日)
1993年から東京新聞夕刊で週1回掲載しているサッカーコラムです。試合や選手のことだけではなく、サッカーというものを取り巻く社会や文化など、あらゆる事柄を題材に取り上げています。このサイトでは連載第1回から全ての記事をアーカイブ化して公開しています。最新の記事は水曜日の東京新聞夕刊をご覧ください。