サッカーの話をしよう
No.179 フランスめざし笛の予選
日本代表チームはワールドカップへの道を3月23日のオマーン戦でスタートする。だが4人の日本人が、その1カ月前に「フランス98」の予選の舞台に立つことは、残念ながらあまり注目されていない。
2月22日に香港で行われるアジア第1次予選のグループ6「香港×韓国」戦に、主審として小川佳実氏、副審として広島禎数氏と石山昇氏、そして予備審判として片山義継氏が国際サッカー連盟(FIFA)から指名されたのだ。
アジアの予選は昨年9月にグループ10の6試合が行われたが、その他の9グループはすべてことしにはいってから。香港×韓国戦は、その皮切りとなる重要な試合だ。
そうした試合の主審に小川氏が指名されたのは、昨年10月のアジアユース選手権(韓国)で見事な笛を吹き、絶賛されたことが大きい。小川氏は決勝戦の主審を任されたのだ。
昨年12月にUAEで行われたアジアカップでは、やはり日本の岡田正義氏が「大会ナンバーワン」の評価を受けた。この大会で岡田氏は準決勝まで3試合の主審を務めたが、いずれもすばらしい出来。豊富な運動量、スピード、ゲームの流れの読み、そしてアドバンテージの適用など、文句のつけようがなかった。
昨年の途中まで「線審」あるいは「ラインズマン」と呼ばれていた副審(アシスタント・レフェリー)にも、優れた人材がそろってきた。
以前は副審は主審より地位が低いと考えられがちだったが、FIFAが「国際副審」を導入し、「副審は専門家に任せる」という方針をとったことから、「副審としてワールドカップに行きたい」と志す人も出てきた。広島氏、石山氏らはJリーグでも副審専門で活動している。
Jリーグでは、批判されることはあっても滅多にほめられるこなどないレフェリーたち。しかし日本人レフェリーのレベルは、Jリーグの誕生が刺激となり、また世界的な名手のスピーディーなプレーがすばらしい経験となって、ここ数年間で大きく上がっている。2月のワールドカップ予選への指名、岡田氏の活躍はその何よりの証明だ。
ワールドカップは、世界中の選手にとっての夢である。決勝戦終了後にあの黄金のカップを受け取ることを夢見ない少年はいない。Jリーグのスターたちも、日本代表になってワールドカップに出場することを大きな目標としている。
だが同時に、レフェリーたちにとっても、ワールドカップは大きな夢なのだ。まず参加すること、そして一試合でも多く笛を吹き、あるいは副審を務めて、決勝戦に近づいていくこと。そこに向かって努力を続けていない人はいない。
ワールドカップに参加できるレフェリーは世界中でほんの数十人。アジアからは主審、副審を合わせてもせいぜい4、5人だろう。そのなかにはいることは至難の業といっていい。
過去、2人の日本人レフェリーがワールドカップの大舞台に立っている。丸山義行氏が70年メキシコ大会で線審を務めて先鞭をつけ、86年メキシコ、90年イタリア大会では高田静夫氏が計3試合の主審を務めた。
そしていま、新しい世代が日本の審判界をリードし始めようとしている。経験と実力だけでなく、若さもある。岡田氏、小川氏、片山氏、石山氏は全員30代後半、そして広島氏は34歳だ。
来年のフランスで、日本代表の青いユニホームとともに、日本人レフェリーのはつらつとした審判ぶりが必ず見られるはずだ。
(1997年2月3日)
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