サッカーの話をしよう
No.184 サガン鳥栖(未掲載)
3月8日、鳥栖スタジアムからのニュースが映し出したのは、ピンクのシャツを着たサポーターたちの元気な姿だった。ナビスコ杯開幕戦で浦和レッズを迎えた「サガン鳥栖」は、彼らの声援に支えられ、強豪レッズと0−0の引き分けに持ち込んだ。
「サポーターがとまどっているんですよ」
鳥栖に取材にいってきた友人からこんな話を聞いたのは、2月のおわりごろのことだった。
運営会社の解散で「鳥栖フューチャーズ」は消滅したが、地元佐賀県協会の熱意と日本サッカー協会やJリーグの理解でJFLの地位を引き継いだ「サガン鳥栖」。だが、「超法規的措置」で参加が決まったナビスコ杯のチケットは、1試合平均1000枚しか売れていなかった。
「地元のサポーターたちが望んだのは、あくまで鳥栖フューチャーズの存続。応援の旗も、レプリカのユニホームも、ピンクのフューチャーズのものしかもっていない。しかしフューチャーズはなくなり、サガンという新しいチームができた。選手の大半が変わり、クラブカラーもまったく違う。はいそうですかと、新しいチームを応援するとはいいにくいんですよ」
友人は、鳥栖のサポーターたちの心情をそう説明してくれた。
セレッソの楚輪博前監督が、ドイツ留学の予定をキャンセルして監督を引き受け、選手も一応そろってシーズンにはいる態勢ができた。Jリーグからも応援の役員がかけつけ、地元企業の温かな支援も出てきた。だが、肝心の市民はなかなか熱くならなかった。それは、友人が取材してきたサポーターたちの心情を、新クラブが察することができなかったことも一因になっていたはずだ。
だが、3月8日の鳥栖スタジアムには7021人がはいり、大いに盛り上がった。最後の一週間で、ファンも気持ちに整理をつけたのだ。サポーターがピンクのユニホームのままで「サガン」の応援をしたところに、それが現れていた。
この出来事は、Jリーグの全クラブに貴重な示唆を与えている。「ファンやサポーターの気持ちを理解した運営」が、いかに大事かということだ。
昨年から観客減、チケット販売の不振が顕著になったJリーグ。各クラブは今季に向けて多種多様なアイデアを出してきた。
だが、その根底に「ファンやサポーターの心情」への理解はあるだろうか。どうしたらチケットを買ってもらえるか、どうしたらスタジアムに来てもらえるかを考えるとき、彼らが本当は何を望んでいるかという点からスタートしただろうか。
運営本部に居すわるのではなく、観客席に座って、あるいはサポータースタンドに立って、試合を見たことはあるだろうか。
(1997年3月24日)
1993年から東京新聞夕刊で週1回掲載しているサッカーコラムです。試合や選手のことだけではなく、サッカーというものを取り巻く社会や文化など、あらゆる事柄を題材に取り上げています。このサイトでは連載第1回から全ての記事をアーカイブ化して公開しています。最新の記事は水曜日の東京新聞夕刊をご覧ください。