サッカーの話をしよう

No.192 ユース代表にもJリーグ効果

 興味深い数字がある。
 98年フランス大会を含め、日本は10回のワールドカップ予選に出場しているが、これまでちょうど50試合を戦い、通算成績は22勝11分け17敗、得点91失点44。このうち90年イタリア大会までの8回の予選では、10勝8分け16敗と負け越し、得失点差はわずかに+1。ところが、94年アメリカ大会と今回の予選を合わせると、12勝3分け1敗、得点52失点6と、大きく勝ち越しているのだ。
 Jリーグ発足(日本サッカーの完全プロ化)の最大の目的は日本代表の強化だったが、数字で見る限り、これ以上なくうまくいっているといっていい。
 だが「Jリーグ効果」は代表チームだけに留まらない。その下の年齢層の代表が、次々と「世界」の舞台に飛びだしているのだ。
 96年アトランタ・オリンピックはまだファンの記憶に新しい。実に28年ぶりのオリンピック出場だった。それまで大きくたちはだかっていた「アジア予選」の壁を、23歳以下の選手で構成された日本は見事に乗り越え、世界の舞台でブラジルを倒した。
 それだけではない。20歳以下の「U−20日本代表」、17歳以下の「U−17日本代表」は94年に次々とアジア予選を突破し、95年に行われた世界大会で活躍している。
 この両方の年代の世界大会には、日本はそれ以前にも一度ずつ出場している。しかしそのいずれもが「地元」、すなわち日本で開催された大会だった。アジア予選を突破したのは、94年が初めてだったのだ。
 そして昨年10月、U−20日本代表は余裕たっぷりにアジア予選を勝ち抜いて世界大会への出場を決めた。その世界大会、第9回ワールドユース選手権は6月16日から7月5日までマレーシアの6都市を舞台に開催される。
 「前回はベスト8だったから、今回はベスト4を目指す。いろいろな地域のチームと、できるだけたくさんの試合をしたい。ベスト4に残れば7試合になるから、選手たちにとってすばらしい経験になる」
 山本昌邦監督(39)は力むことなくそう語る。西野朗監督を助けてコーチとしてオリンピックを経験した、日本期待の若手コーチのひとりだ。
 先週には18人の代表選手も発表された。静岡学園高校のGK南雄太以外はすべてJリーグのプロ選手である。DF古賀正紘(名古屋)、MF中村俊輔(横浜M)、FW柳沢敦(鹿島)など、2002年のワールドカップの中心と期待される選手も多い。
 前回、95年にカタールで行われた第8回大会、日本はスペイン、チリ、ブルンジと組んだグループを2位で突破してベスト8に進出した。準々決勝ではブラジルを相手に1点を先行したが、前半のうちに逆転されて1−2で敗れた。
 だが世界の強豪と互角に近い試合ができたことは、日本の若い世代全体に大きな自信を与えた。日本から2点をとったラウルは、すでにスペイン代表のエースに成長しており、最近80億を超す巨額で移籍の申し込みを受けた。そんな世界のスターと対等に戦った経験が、プラスにならないわけがない。
 今回の日本の初戦は6月18日の対スペイン。そして1日おきにコスタリカ、パラグアイと続く。
 山本監督は、成績よりも「いい経験をすることが大事」と強調する。
 「このチームが2000年シドニーオリンピック、2002年ワールドカップにつながってほしい」(山本監督)という願いは、日本のサッカーファン全体に共通するものだ。

(1997年6月2日)
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