サッカーの話をしよう
No.194 CM出演にも責任感を
マラソンの有森裕子選手が「プロ」になる問題でひとつ驚いたことがある。競技ではなくCM出演の可否が争点だったことだ。「レースに出ずにプロになる」という、スポーツ選手としては本来矛盾した話が、堂々と新聞に載るのにはびっくりした。
しかし、その有森選手が出演するCMが最近テレビで流れるようになって、私は「なるほどな」と感心した。有森選手が、出演するCMを選んでいるのではないかと推測されるからだ。牛乳やスポーツ飲料など、「スポーツのプロ」にふさわしい商品のCMだ。
野球やサッカーなど、たくさんのプロスポーツ選手がテレビのCMに出演している。しかしそのなかには「プロ選手」としてふさわしくないものが少ないないように思える。
スポンサーがプロのスポーツ選手をCMに起用する理由は「知名度」だけではない。スポーツがもつさわやかではつらつとしたイメージ、そして何よりも、十代の少年少女たちに強くうったえる力をもっているからにほかならない。
とくにサッカーは、若い世代に人気のあるスポーツだ。サッカー選手がCMに起用されるのは、小学生から高校生ぐらいまでの男の子をターゲットにした商品が圧倒的に多い。
だが残念なことに、現在サッカー選手が出演しているCM商品には、少年たちの健全な発育に良くない影響を与えるものが少なくない。スナック菓子、インスタントラーメン、炭酸ドリンク・・・。これらはすべて、成長期の少年たちの発育を妨げるものだ。
しかも、Jリーグの各クラブでは、プロ選手としてどんな食生活をすべきかをしっかりと教育している。選手たちは、こうした食品の弊害をよく知っているはずである。それを少年たちに勧めているのだ。
このような事態はサッカー選手に始まったことではない。日本では、「CM出演者の責任」が問われることはまずないからだ。
欠陥商品、ときには詐欺商品が摘発されても、その商品の販売に「貢献」したCM出演者の責任は追求されることはない。だから歌手も俳優も、ひとつの「条件のいい仕事」として気楽にCMに出演する。だがプロのスポーツ選手もそれでいいのだろうか。
Jリーグの選手たちの生活は、少年を中心としたファンに支えられている。その少年たちを害する商品のCMに出演することは、重大な裏切りではないか。
「青少年に害悪」といえば、最も重大なのがタバコだろう。以前、国際サッカー連盟(FIFA)はタバコをワールドカップの公式スポンサーのひとつとして認めていたが、現在ではそれを排除している。(日本サッカー協会は依然としてスタジアム内に掲出する広告看板にタバコを許している。それは全国でテレビを見ている少年たちに「タバコを吸いなさい」と勧めているのと同じだ)。
現在では、タバコのCMに出演しているスポーツ選手はいない。ここには、はっきりと「線引き」がされているのだ。
とすれば、いましなければならないのは、この「線引き」の基準を選手自身が見直すことではないか。
スポーツ選手のCM出演には、それにふさわしい基準があるはずだ。とくに青少年に人気のあるサッカーでは、無責任なCM出演は慎まなければならない。
選手たちは、自分のドリブルやシュートにあこがれる少年たちが、自分の「スタイル」をすべて真似しようとすることを強く意識しなければならない。CM出演には、そこまでの責任が伴っているのだ。
(1997年6月23日)
1993年から東京新聞夕刊で週1回掲載しているサッカーコラムです。試合や選手のことだけではなく、サッカーというものを取り巻く社会や文化など、あらゆる事柄を題材に取り上げています。このサイトでは連載第1回から全ての記事をアーカイブ化して公開しています。最新の記事は水曜日の東京新聞夕刊をご覧ください。