サッカーの話をしよう
No.211 フランスに向け強化委員会の改革を
ワールドカップ決勝大会の組分けが決まった。
「アルゼンチンとクロアチアは同レベルのチーム。日本のグループリーグ突破は簡単ではない」
私はこう考えている。
だが、どんな相手とやるにしても、日本チーム自体の準備が万全でなければ成功はおぼつかない。その点で非常に気がかりなことがある。矛盾をかかえる「強化委員会」のあり方だ。
日本サッカー協会の組織のなかで、代表チームの活動の支援などをするのが強化委員会だ。代表チームが最大限に力を発揮できるようサポートすると同時に、チームと協会の橋渡し役を負わされている。
だが、10月の加茂前監督更迭以来、強化委員会と代表チームの関係は必ずしもいい形ではない。というより、「危機的状況」にあると言ったほうがいい。
あのとき、「監督交代」の記者会見に出席した大仁邦彌強化委員長は、3月の「オマーン・ラウンド」からの加茂前監督の采配に対する「評価」をメディアの前で語った。この瞬間に、強化委員会と代表チームの関係は大きく変わった。少なくとも、代表チーム側はそう受け取ったはずだ。
96年4月にスタートした「大仁強化委員会」は、代表チームに対しては常にサポートする立場であることを標榜してきた。この強化委員会の仕事をないがしろにする面が、加茂前監督にあったのは事実だ。だがそれでも、代表チームにとって強化委員会は「味方」のはずだった。
ところが10月4日のアルマトイで、強化委員会が監督の仕事を「査定」しているという印象が強まった。選手やスタッフが、それを「裏切り」と見たとしても不思議ではない。
予選を終えてフランスで日本を率いる監督を決めるときにも、大仁委員長は岡田監督に対する「評価」をメディアに語った。
加茂前監督に対する「査定」も、岡田監督に対する「評価」も、根本は変わらない。強化委員会が「サポート役」であるだけでなく「採点役」であるという点だ。このふたつは、本来並び立つことのできないもののはずだ。
その矛盾は、中学教師のジレンマに似ている。
教師は生徒にとって指導者であり、味方のはずだ。道を教え、正しい方向に導く人物である。しかし一方で、内申書という形で第三者にその生徒の評価を伝えなければならない。それが教師と生徒の信頼関係に大きな影を落としている。
この問題の別の側面、そして非常に重要なポイントが、長沼健・日本サッカー協会会長にある。代表監督の人事は理事会とその長である会長の権限であり、責任でもある。だが会長は、その責任をあいまいにし、「独断ではない」ことを強調するために大仁委員長をメディアの前に引き出し、語らせてきたからだ。
だが、とにかく、現在の強化委員会が構造的にもつ矛盾が明らかになり、代表チームと強化委員会の間に大きな溝ができてしまったのは確かだ。
半年後に迫ったワールドカップ。最善の準備をして臨まなければ、元も子もないことになる。そうならないために、代表チームへの「サポート態勢」を万全にしなければならない。
会長、理事会に判断材料を提供するために代表チームや監督の「評価」をする仕事が必要であれば、それは「強化委員会」からは切り離すべきだ。委員会の役割を明確にし、代表チームに示して、「味方」であることを納得させることができなければ、日本代表は孤立無援の思いでフランスでの戦いに挑まなければならなくなる。
(1997年12月8日)
1993年から東京新聞夕刊で週1回掲載しているサッカーコラムです。試合や選手のことだけではなく、サッカーというものを取り巻く社会や文化など、あらゆる事柄を題材に取り上げています。このサイトでは連載第1回から全ての記事をアーカイブ化して公開しています。最新の記事は水曜日の東京新聞夕刊をご覧ください。