サッカーの話をしよう
No.213 98年をフェアプレー元年に
元日、色とりどりの年賀状にまじって、ヨーロッパサッカー連盟(UEFA)からの月間レポートが届いていた。そのなかに、「フェアプレーコンペティション(競争)」の新提案が、理事会で承認されたというニュースがあった。
UEFAは93年にこの競争をスタートした。クラブやナショナルチームなどUEFA主催の全試合を対象に「フェアプレー度」を採点する。その年平均で国の順位を決める。そして上位3カ国には「UEFAカップ」への出場枠を1つずつ追加してきた。
UEFAカップはヨーロッパの3つの「クラブカップ」のひとつ。通常はリーグ戦の上位のチームに出場権が与えられる。国によっては3位、4位まで出場できる。この大会への出場はクラブ収入の大幅な増大をもたらす。
これまで、フェアプレー競争による追加出場枠は自動的にその国の「次点」チームに与えられてきた。リーグ4位まで出場できる国なら5位のチームというわけだ。しかし99年から、リーグ戦での順位に関係なく、国内での「フェアプレー競争」で1位になったチームに与えられることになった。これが今回の決定の最大のポイントだ。
日本でいえば、「フェアプレー賞」を受賞したヴィッセル神戸を99年の「2部」落ち候補から外し、無条件で「1部」の座を保証するようなものだ。
さらに条件がある。国内の試合を対象にUEFAと同じ採点基準のフェアプレー競争がなければ、追加出場の対象にはならない。見事なまでの徹底ぶりだ。
UEFAの「採点基準」は、警告と退場をマイナスポイントでカウントするだけの日本とは大きく違う。UEFAのフェアプレー委員が試合ごとに以下の6つの要素で採点し、最終的にに10点満点でポイントを出す。(ちなみに、FIFA=国際サッカー連盟も同様の基準を置いている)。
1 警告と退場
2 積極的なプレー(最後まで得点を目指してプレーし、守備偏重戦術や時間かせぎがなかったか)
3 相手選手への敬意
4 審判への敬意
5 役員の行動
6 ファンの行動
98年の幕開け、元日の天皇杯決勝で、鹿島アントラーズはすばらしいプレーを見せた。個々の力、コンビネーション、そして90分間途切れることのなかったファイティングスピリットなど、「百点満点」といっていいプレーだった。
だが「フェアプレー」の観点ではどうか。たしかにイエローカードは出なかった。だが選手ばかりでなくベンチを含めての執拗な審判への抗議、反則を受けていないのにFKを取ろうとする「ダイビング」、そしてサポーターによる相手チームやレフェリーへの無節操な悪意など、目に余る行為にあふれていた。
それは、すばらしかったプレー自体の感動を帳消しにした。
「フェアプレーで喰っていくことはできない」
まるでそう言っているような勝利。それでいいはずがない。
日本サッカー協会もJリーグも、フェアプレーキャンペーンを展開している。だが大きな成果が上がっているようには見えない。
第一に、フェアプレーの要素が警告や退場だけではないことをはっきりと示さなければならない。そのうえで、フェアプレーが割に合う(アンフェアーな行為は割に合わない)ことを、制度として確立しなければならない。
98年、ワールドカップ初出場の年。本当の「フェアプレー元年」にするにふさわさしい年ではないか。
(1998年1月5日)
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