サッカーの話をしよう

No.216 Jと代表 岡田監督のプロフェッショナルな決意

 ジャマイカが1月早々からブラジルでの長期合宿にはいった。韓国も1月5日に合宿を開始、4月には3週間のヨーロッパ遠征をする予定だという。
 それに対し、日本は2月8日までチームとしての活動はなく、それから約1カ月間の活動後に解散、4月1日の韓国戦(ソウル)をはさんで次に集まるのは5月10日過ぎ、ワールドカップ開幕の1カ月前となる。
 この計画に、「初出場なのに、これでいいのか」という声が上がっている。
 「ワールドカップを甘く見ているんじゃないか。こんな準備では、勝ち点どころか、大敗を喫するぞ」
 そう言う人も多い。
 何事につけ、「準備」は成功への最大のカギだ。いい準備をした者だけが、成功をつかむことができる。ましてワールドカップである。日本チームが最善の準備をしても勝てるという保証はない。

 しかし、現在の日本サッカーでは、ジャマイカや韓国のような強化スケジュールを組むことはできない。Jリーグがあり、選手たちはそこで生計を立てているからだ。
 「クラブと代表」の争いは、サッカー界では古くて新しい問題だ。1930年に行われた第1回ワールドカップに、多くのヨーロッパの国が参加を見合わせたのは、選手の所属クラブがそんなに長期間、しかも大西洋のかなたに選手を出すのを渋ったからだった。
 そして昨年の暮れには、サウジアラビアで行われたコンフェデレーションズカップ(各大陸のチャンピオンによる大会)にブラジル代表選手を供出しなければならなかったスペインやイタリアのクラブから大きな不満が出て問題になった。
 世界のサッカーの基盤は「クラブ」にある。サッカー選手たちはそこで育ち、そこでプレーし、そこで生きている。代表チームというのは、あくまでも臨時の選抜チームにすぎない。

 もちろん、代表チームの活躍が国内のサッカーを活気づかせ、クラブに恩恵を与えることもある。しかし代表チームがなくてもサッカーは続き、サッカー選手はプロとしてやっていくことができるが、クラブがなければ選手たちは生活の場を失い、代表チームを組織することもできなくなるのだ。どちらが「ベース」であるかは明白だ。
 求められるのは、成熟した「バランス」である。クラブが選手をフルに使ってしっかりと活動でき、しかも代表チームもチームづくりを進めるトレーニングや試合をこなすことができる年間スケジュールを、代表チームを組織するサッカー協会と、クラブを統括するリーグ組織が、しっかり調整しなければならない。

 97年後半のJリーグは国際サッカー連盟がアジア最終予選の方式を理不尽に変更したため大きな打撃を受けた。日本代表選手たちがワールドカップ予選突破という快挙を成し遂げながら所属クラブで年俸のダウンを受け入れなければならなかったのは、それが少なからず影響している。
 いい準備をするために、理想をいえばきりがない。しかしワールドカップの準備のためにクラブにこれ以上の犠牲を強いることはできない。ぎりぎりのところの判断が、今回の準備日程だったのだと思う。
 「現状の日本サッカーのなかで戦っていく以外に道はない。Jリーグの経営状態など、総合的に考えて、協会の強化部門が代表の日程を決めたはずだ。そのなかで結果を出すのが私の仕事だと思う」
 メンバー発表の記者会見でそう語った岡田監督のプロフェッショナルな決意の意味を、私たちは理解しなければならない。

(1998年1月26日)
クリエイティブ・コモンズ・ライセンス

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