サッカーの話をしよう
No.217 どうなる? FIFA会長選
6月上旬、日本は日本代表チームの話題でもちきりになっているだろう。いよいよフランス国内での合宿地へはいり、最終調整の段階。カズや中田の体調が連日の話題だろう。
だが、21世紀の世界のサッカーを考えるうえで非常に重要なことが、6月8日にパリで決定される。FIFA(国際サッカー連盟)の総会が開催され、その場で、新しい会長が選ばれるのだ。
74年に前会長のスタンレー・ラウス卿(イングランド)を破って会長に当選して24年、ブラジル人のジョアン・アベランジェがようやく引退を決意したのは昨年。以来、ことしの選挙に向けての動きが活発となった。
誰もが認める有力候補はUEFA(ヨーロッパサッカー連盟)会長のレンナート・ヨハンソン(スウェーデン)。FIFAのなかでも最大の発言権をもち、財政的に近年非常に成功しているUEFAだけに、支持母体は強力だ。
95年末の「ボスマン判決」により、UEFAの中核をなすEU(ヨーロッパ連合)内では移籍金が認められなくなった。そのため中小クラブの存立の危機が叫ばれたが、ヨハンソンはトップクラスのサッカーで生んだ利益を中小のクラブに還元する政策をとり、うまく乗り切った。
また、経済が混乱状態の東ヨーロッパの国々のサッカーに対する支援も積極的に進めている。トップクラスのサッカーや一部の国だけでなく、圏内のサッカーをしっかりとフォローしているヨハンソンの仕事ぶりを評価する人は多い。
一方、長年ヨハンソンの攻撃の的になってきたアベランジェは、UEFAが世界のサッカーを牛耳るようでは困ると、ヨハンソンに対立候補を立てようと努力を続けてきた。
最初に白羽の矢が立ったのは、南米サッカー連盟副会長のフリオ・グロンドナ(アルゼンチン)。野心のないグロンドナに断られると、今度はフランツ・ベッケンバウアー(ドイツ)やミシェル・プラティニ(フランス)といった元人気選手に声をかけた。これにも失敗し、最後にたどり着いたのが、現在FIFAの事務総長を務めるヨゼフ・ブラッター(スイス)だ。
ブラッターは現在まで立候補を表明していないが、UEFAは「立候補するなら現職を辞任せよ」と迫っており、難しい立場だ。
立候補がうわされていたアフリカサッカー連盟会長のイサ・ハヤトウ(カメルーン)は昨年早くにヨハンソン支持を表明している。またアジアサッカー連盟事務総長のピーター・ベラパン(マレーシア)は、ヨハンソンからFIFA事務総長の座をオファーされたともらしている。
ヨーロッパとアフリカ、アジアを合わせると、FIFAの4分の3ほどの勢力になる。この状況では、候補者はヨハンソンひとりになる可能性も高い。立候補締め切りは4月7日だ。
アベランジェ会長はサッカーをコマーシャリズムと結びつけた。そしてその資金でユース大会を創出し、アジアやアフリカなど「後進地域」の発展に役立つプランを実施してきた。
その政策に批判的だったヨハンソンが会長に就任すれば、FIFAの方針や施策は大きく変わるはずだ。新会長の任期は四年。それは、新会長が2002年ワールドカップに大きな影響を与える存在であることを示している。
6月8日に誰がアベランジェの後継者に選出されるかは、21世紀のサッカーにとって重大な意味をもっているだけではない。日本にもたいへん関わりのあることなのだ。
(1998年2月23日)
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