サッカーの話をしよう
No.220 サッカーくじで手軽にスポーツを楽しむ施設を
私は東京に住み、東京でサッカーをしている。
「監督」として登録している女子のクラブチームは東京女子リーグ一部に所属し、「選手」「審判」として登録している男子のクラブチームは東京社会人リーグ三部所属だ。
両クラブとも、悩みは共通だ。グラウンド不足である。東京にも都営、区営、市営など公営のグラウンドはあるが、サッカーチームの数に比べると圧倒的に少ない。その区の区民しか使えないなどの制限も多い。日曜や休日には区や市のサッカー協会が専用グラウンドのように使うため、一般のチームが借りるチャンスさえないところもある。
男子クラブはまだいい。社会人リーグにはグラウンドを所有する企業のチームがいるので、その企業のグラウンドでリーグ戦などをこなすことができる。しかし女子のリーグにはグラウンドをもつチームがほとんどなく、年間わずか5試合のホームゲームを行うためのグラウンド探しに四苦八苦しなければならない。
クラブ員は手分けして可能性のあるグラウンドを探し、抽選に参加してわずかなチャンスにかける。しかし土曜の午後や日曜はどのグラウンドも使用希望者が殺到し、絶望的な倍率だ。
そしてようやくとったグラウンドも、ほとんどは更衣室がなく、呼吸などできない汲み取り式のトイレと水道がひとつあるだけといったところばかり。そのうえ少し雨が降ると、「あとの整備が大変だから」と、使用禁止になってしまう。
「専用グラウンドがほしい」。サッカーをやっている者なら誰でもいちどは思う。そんな夢は求めない。せめて日曜日ごとに、2時間ずつでいいから、きちんと練習や試合ができるグラウンドを確保したい。
日本の都市部では、どこでも同じような状況に違いない。都市に住む者は、サッカーなどという「ぜいたく」な遊びはしてはいけないのだろうか。けっしてそうではないと思う。
ロンドンの郊外には、なんど88面ものサッカーグラウンドをもつ広大なスポーツ公園がある。こんな施設があるから、誰でもサッカーを楽しむことができる。シーズンになると、ここを使って8つものロンドン住民のリーグが熱戦を展開している。なかには、トルコ人だけのリーグや、アジア人だけのリーグなども含まれているという。
ドイツでは、小さなコミュニティごとにスポーツクラブがあり、専用グラウンドをもっている。そのほかにも市のスポーツ公園があり、ほとんど競争なしに借りることができるという。
「希望者みんながサッカーを楽しむ」という面で、日本はひどく遅れた国だ。サッカーに限ったことではない。何か好きなスポーツを楽しもうとするとき、これほど苦痛や困難を伴う国はない。たくさんの人が、それを感じている。
「サッカーくじ」がいよいよ実現しそうだ。くじの目的とされる「スポーツ振興」には、トップクラスの競技施設建設やオリンピック選手の強化など、種々の意味が込められているようだ。それもいいだろう。
しかしスポーツの面でこれからの日本に何より必要なのは、一般の人びとが自分でスポーツを楽しむ施設だ。それを全国的に充実させなければ、21世紀の日本は病人と病院ばかりの国になるほかはない。
サッカーくじが始まったら、毎週せっせと参加したい。ただし条件がある。
サッカーを楽しむためのグラウンドを都市部にも増やすなど、何よりも優先して、誰もが手軽にスポーツに参加できる施設と制度づくりに、その収益を投じることだ。
(1998年3月23日)
1993年から東京新聞夕刊で週1回掲載しているサッカーコラムです。試合や選手のことだけではなく、サッカーというものを取り巻く社会や文化など、あらゆる事柄を題材に取り上げています。このサイトでは連載第1回から全ての記事をアーカイブ化して公開しています。最新の記事は水曜日の東京新聞夕刊をご覧ください。