サッカーの話をしよう

No.242 FK時の攻撃側の不正を防ごう

 ゴール前のフリーキック(FK)は、サッカーで最もスリリングなシーンのひとつだ。
 どのチームにもひとりは「専門家」がいて、鋭くカーブをかけたキックでゴールを狙う。守備側は4人、5人の選手を並べて「壁」をつくる。壁はボールから9.15メートル離れなければならない。中途半端な数字だが、サッカーのルールはイングランド生まれ。元々が「ヤード・ポンド法」で書かれているためだ。10ヤードといえば切りがいい。
 しかし事は簡単には運ばない。守備側はたいていこの距離よりずっと近い地点に壁をつくるからだ。その結果、攻撃側の要請を受けて、主審はキックを待つように指示して壁を下げなければならなくなる。そしてこのときにまた新たな問題が持ち上がる。
 
 21日に横浜で行われたマリノス×柏レイソル戦の前半終了近くに、FKをめぐって小さなごたごたがあった。
 マリノスのFK。主審がレイソルの壁を下げようとしているときに、マリノスの中村がボールを少し前に動かしたのだ。壁のなかにいたレイソルのストイチコフがそれを見て大きな声を上げて主審にアピール。主審はボールのところに戻って元の位置に下げさせた。するとこんどはレイソルの壁がささっと前進する。当然マリノスがアピール。こうして、反則があってからFKが行われるまで、実に1分45秒もの時間が浪費されたのだ。
 主審も、もう少し注意を払うべきだったかもしれない。しかし壁を下げさせるには、どうしてもボールに背を向ける瞬間が発生する。なにしろ多勢に無勢だ。選手たちの行為をすべて監視するのは不可能に近い。
 もちろん、最大の問題は選手たちの悪質さだ。ボールの位置を1メートル横に動かせば壁を避けてシュートコースが生まれる。リードしているときには、時間をかせぎ、守備側をいらだたせることを目的としてボールを動かす選手までいる。
 
 こうした行為を防止するには、新しい規則をつくる必要があるように思う。反則のあった位置にボールを置いた後、攻撃側の要求によって主審が壁を下げさせるときには、攻撃側は一切ボールに触れてはならないという規則だ。
 ただし規則の実行には副審の協力が必要となる。主審が壁を下げさせているあいだは副審がボールを監視する。攻撃側がボールに触れたら、副審は主審に通告して「反スポーツ的行為」として警告を与える。
 「警告はきつすぎる」と思われるかもしれない。しかしプレーが停止している最中の不正行為だからFKというわけにはいかない。しかも「勢い余ってボールに触れる」というようなことはないから、気をつけていさえすれば問題はない。
 この規則が実施されれば、試合の進行はずっとスムーズになるはずだ。主審は安心して壁を規定の距離まで下がらせることができる。下がらせたら、副審が何かサインを送っていないかをチェックして、プレー再開の合図をすればよい。
 
 あからさまに近い距離に守備の壁をつくる行為には本当にうんざりする。これをなくすための方策も考えなければならないが、まずはいったん置いたボールに触れてはならないという規則で攻撃側の悪質な行為をなくさなければならない。
 この新しい規則は「ルール改正」は不要。「審判方法の改善」程度の話だと思う。FIFAに確認のうえ、国内の試合ですぐにでも実行に移すことを提案したい。それによって、サッカーの「見苦しい習慣」のひとつを簡単に葬り去ることができるはずだ。

(1998年10月28日)
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1993年から東京新聞夕刊で週1回掲載しているサッカーコラムです。試合や選手のことだけではなく、サッカーというものを取り巻く社会や文化など、あらゆる事柄を題材に取り上げています。このサイトでは連載第1回から全ての記事をアーカイブ化して公開しています。最新の記事は水曜日の東京新聞夕刊をご覧ください。

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