サッカーの話をしよう
No.252 どのチームもピッチに出るのは11人
1年前には9位という信じがたいポジションまで上がっていた「FIFA(国際サッカー連盟)ランキング」の最新の発表で、日本は33位に後退した。
長年の調査検討の末、FIFAが初めてランキングを発表したのが93年8月。以来、このデータはワールドカップ予選や決勝大会でのシード分けに活用されてきた。しかしこれが正確に実力を反映しているわけでないことは、誰の目にも明らかだった。
そこで今回、FIFAはランキングの元となるポイント制を全面的に見直し、新基準をつくった。8年間の試合結果を取り入れて過去2回のワールドカップ成績を大きなポイントとし、同時に弱小チームとの対戦結果は参考にしないことにしたため、日本は前月のランクから13位も下がり、33位になったのだ。
「まあ、この辺か」と思う。ワールドカップ出場が32チームなのだから、悪いポジションではない。
「ワールドカップが、1つの国から1チームの大会でよかった」
大会のたびに、こんなばかげたことを考えてしまう。ワールドカップが、もし1カ国から何チームでも出場できるような大会だったら、ベスト4はすべてブラジルということになってしまうかもしれない。
日本もブラジルも出場は同じ1チーム。チームスポーツでは当然のことだが、公平さと不公平さが同居しているようで興味深い。
同じようなことが、サッカーチームそのものでも言うことができる。
サブにまで世界的なスターをかかえる超ビッグクラブのレアル・マドリード(スペイン)が、ワールドカップ代表などひとりもいないブラジルのボタフォゴに苦しめられたのは、昨年のトヨタカップだった。小さなクラブが大きなクラブを倒すのは、けっして珍しいことではない。
選手層からすれば大差がついても当然の試合で、なぜそんなことが起きるのか。それは、どんなにたくさんスターがいようと、試合に出場するのはどのチームも同じ11人だからだ。
勝敗は総力戦で競うわけではない。どちらのチームも、11人の選手を選び、その選手だけがピッチのなかでプレーに参加する。そこが、スポーツが戦争と違う最大のポイントなのだ。
3月6日の開幕を目指して、Jリーグの各クラブが本格的な準備にはいっている。横浜フリューゲルスの解散などで選手が大きく動いた今季のシーズンオフ。横浜F・マリノス、名古屋グランパスのように戦力を上げたチームがある一方、戦力面で心もとなく見えるチームがある。
ヴェルディ川崎とベルマーレ平塚は、ともにクラブ経営の事情から昨季までの主力選手を大量に放出し、まるで新チームのような布陣となった。大スターを補強したわけでもない。これまでチャンスに恵まれなかった若手の成長にかけてみようという姿勢だ。
あまりに大きく変わった顔ぶれに、ファンやサポーターは心配になるかもしれない。選手たち自身にも、「こんな戦力で1シーズン戦い抜けるのかな」と不安が広がっているかもしれない。しかしそれは間違いだ。
逆に、大型補強をしたチームは、それだけで戦力が上がったと思っているかもしれない。昨年上位にいたチームに日本代表が3人も加われば、優勝して当然と思う人もいるかもしれない。それも大いなる幻想というものだ。
試合は11人対11人で行うものだ。そして勝負をは、ピッチの上に出ている11人が、心と力を合わせることができるかどうかにかかっているからだ。
(1999年2月3日)
1993年から東京新聞夕刊で週1回掲載しているサッカーコラムです。試合や選手のことだけではなく、サッカーというものを取り巻く社会や文化など、あらゆる事柄を題材に取り上げています。このサイトでは連載第1回から全ての記事をアーカイブ化して公開しています。最新の記事は水曜日の東京新聞夕刊をご覧ください。