サッカーの話をしよう
No.257 サッカーくじでスポーツの自立を
なぜいま、誰も「サッカーくじ」を語らないのだろうか。これほど必要性が明らかなときはないのに...。
メイン出資企業であるフジタ工業がユニホームスポンサーから降り、完全に「自立」を迫られたベルマーレ平塚では、サポーターたちが年会費1万円で5000人の援助会員を募り、試合の運営費を捻出しようという動きが始まっている。
Jリーグのなかでも、クラブによって状況は大きく違う。体力のある大企業が主要な出資者となっているクラブは、厳しいなかでも補強をすすめ、タイトルを狙う動きを見せている。その一方で、存続のためになりふりなど構っていられない状況のクラブもいくつもある。
J2(Jリーグ2部)やその下に新しく組織されたJFLは、不況の影響で参加チームが少なく、それぞれ10クラブと9クラブでのスタートを余儀なくされた。ともに16クラブ程度で運営したいのだが、手を挙げるところがないのだ。
女子でもLリーグから一気に4クラブが消え、リーグ自体の存続も脅かされている。企業自体の生き残りが問題になる状況下、「スポーツなどにカネはかけられない」時代なのだ。
サッカーだけではない。最近だけでも、バスケットのNKKやアイスホッケーの古河電工といったトップクラスの名門チームが会社の事情で活動を停止した。朝日新聞の記事によると、バブル崩壊後の過去五年間に各種のスポーツから企業が撤退して廃部や休部に追い込まれたチームが60を超えるという。トップクラスだけでこれだけあるのだ。あと数年間こうした状況が続けば、日本のスポーツは重大な危機に瀕することになる。
それでも、スポーツ関係者たちは口をそろえて「スポンサーさえ見つかれば」と話す。仮に景気が回復してスポンサーが戻ってきても、それはいつまた放り出すかわからないのに、企業にすがることにしか頭がない。
この不況は、私たちに大事なことを教えてくれた。
「誰かに頼るという状況を脱しない限り、スポーツはいつも簡単に切って捨てられる」
スポーツも自立を迫られているということだ。
Jリーグは、クラブがプロサッカー事業で成功し、収益を上げて、それを下部組織の充実やいろいろなスポーツの発展に充てていくことを理想としている。それもひとつの道だ。
しかしほかにも自立の道はある。それがサッカーくじだ。正式には「スポーツ振興投票」。その名のとおり、スポーツを振興する資金を広く集めるための制度である。
横浜の市民が自分たちのクラブをもちたいと立ち上がったとき、NKKのバスケット部や古河のアイスホッケー部が解散の危機に立たされたとき、サッカーくじから生まれた資金を投入してなんとか存続の道を探ることは不適当だろうか。
トップクラスの競技を見ることもスポーツの楽しみの大きな要素であることを理解する人なら、こうした方向に反対はしないだろう。もしサッカーくじがすでに始まっていて軌道に乗っていれば、廃部や休部に追い込まれた60以上のトップクラスのチームのいくつかは存続させることができたかもしれない。
スポーツに親しみ、スポーツを愛する人たちが、夢や楽しみとともに参加するサッカーくじ。そこから生まれた資金が、チームの存続やスポーツの存立に役だっていく。これは立派な「スポーツの自立」だと思う。
実施へ向けて準備が進んでいるサッカーくじ。しかし肝心の利益の使い道は、ただ広く薄くばらまくだけにならないかと心配だ。本当に日本のスポーツの自立を助ける、見識をもった使い方をしてほしいと思う。
(1999年3月10日)
1993年から東京新聞夕刊で週1回掲載しているサッカーコラムです。試合や選手のことだけではなく、サッカーというものを取り巻く社会や文化など、あらゆる事柄を題材に取り上げています。このサイトでは連載第1回から全ての記事をアーカイブ化して公開しています。最新の記事は水曜日の東京新聞夕刊をご覧ください。