サッカーの話をしよう
No.258 J年鑑に聞いてくれ
今季、Jリーグ(1部)で新しく監督になった人は5人。さてそれでは、93年からの7シーズンで、監督はいったい何人になっただろうか--。
3月上旬、シーズン開幕に先だって、1冊の本が刊行された。「J・LEAGUE YEARBOOK 1999」。Jリーグの公式記録集の2巻目である。98年のJリーグの全公式戦の試合記録と、個人出場記録、そして今季の各クラブの陣容などが掲載されている。日本語では「公式記録集」となっているが、「イヤーブック(年鑑)」と呼ぶにふさわしい内容だ。
Jリーグの公式記録集は、94年から大手出版社の手でつくられ、販売されてきた。しかし売れ行きが思わしくないことから、わずか3シーズンで途絶えた。肩代わりをしてくれる出版社も見つからなかったので、Jリーグは昨年から「自主出版」に踏み切った。
広報部が主体になって「イヤーブック編集委員会」を組織し、実際の編集作業は、Jリーグデーターセンターと編集者の池田博人さんが中心になって行われた。準備期間が短かった昨年の第1巻は、Jリーグ会場などでの限定販売だったが、ことしは「トランスアート」という出版社の手を経て一般の書店にも並べられている。
第2巻は、なかなかの出来ばえだ。印刷が格段にきれいになり、見やすくなっただけでなく、記録の面でも第1巻の欠陥がよく改善されている。
圧巻は、「選手」、「クラブ別外国籍選手」、「監督」、「審判」と並んだ「インデックス」だ。選手の項では、93年以来Jリーグで1試合以上プレーした全選手の、年度ごとの出場・得点記録が網羅されている。
この本のモデルとなったのは、1970年からイングランドで発行されている同種の刊行物。たばこ会社がスポンサーとなり、一般に「ロスマンズ」と呼ばれている。この夏には第30巻目発行という、歴史あるイヤーブックだ。
感心するのは、毎年データが更新され、過去の記録などが増えていくなかで、基本的なフォーマットが、30年前もいまもまったく変わっていないことだ。イギリス人の頑固さとともに、ことを始めるにあたって、いかに熟考して、「不朽」のものをつくるかが感じられる。
イタリアには、1939年に第1巻が刊行され、すでに58巻目になったイヤーブックがある。こちらは、出版社の名前から「パニーニ」の名で知られている。「パニーニに聞け」と言えば、それはイタリアのサッカーに関することはこのイヤーブックにすべて載っているから、見てみなさいということだ。
昨年のワールドカップ期間中にパリのプレスセンターで原稿を書いているときに、イタリア代表の数年前の試合結果を知る必要が出た。私にはあやふやな記憶しかなかったのだ。すると天の助けか、横でイタリア語が聞こえる。私はずうずうしさも顧みず聞いてみた。
幸いにも、その人はイタリア人記者には珍しく紳士だった。私と彼の記憶が違うのを知ると、即座にローマの本社に電話し、仲間に頼んだ。「パニーニに聞いてくれ」。そして、彼の記憶が正しいことがわかった。
「ほらね。オレの記憶は信じられなくても、パニーニなら信じるだろう」。得意満面に、彼はウインクして見せた。
Jリーグにも、ようやく立派なイヤーブックができた。しかしロスマンズやパニーニは、それを何十年という単位で「継続」することで、初めて「信頼」につながることを教えている。
ところで、最初の質問の正解は、75人。「監督インデックス」の項には、昨年までの70人の監督の成績が、年度ごとに並べられている。
(1999年3月17日)
1993年から東京新聞夕刊で週1回掲載しているサッカーコラムです。試合や選手のことだけではなく、サッカーというものを取り巻く社会や文化など、あらゆる事柄を題材に取り上げています。このサイトでは連載第1回から全ての記事をアーカイブ化して公開しています。最新の記事は水曜日の東京新聞夕刊をご覧ください。