サッカーの話をしよう
No.259 世界サッカーのカレンダー
中田が帰ってくる。
来週水曜日にブラジル代表を迎えて東京で行われる国際試合のために、5カ月ぶりに日本のファンの前に登場するのだ。中田の出場が早くから確実視されていたこともあって、日本×ブラジル戦の入場券は、発売後わずか20分間で完売した。
シーズン真っ最中の中田が帰ってくることができるのは、いやそれ以前に、スターの大半がヨーロッパのクラブでプレーするブラジル代表のアジア遠征(28日に対韓国戦)が実現したのは、ヨーロッパに「国際試合週間」があるからだ。
現在進行中のヨーロッパ選手権予選。その試合が、今週末から来週の水曜日にかけて、いっせいに38も組まれている。だから今週末は、各国のリーグ戦はそろって休みなのだ。
かつては、ヨーロッパでは国際試合はほとんど水曜日に行われていた。代表選手たちは土曜あるいは日曜のリーグ戦を戦った後合宿にはいり、水曜日に代表チームで試合をした後に、所属クラブに戻ってまた週末のリーグ戦に出場していた。
しかしこうしたスケジュールだと、代表チームは試合をするために集まるだけで、ほとんど練習することができない。そこで、代表ゲームのある前の週末はリーグ戦を休みにし、ほぼ1週間にわたって合同練習をして試合に臨む国が出てきた。
当然、そうした国は好成績を残すようになる。そして現在では、UEFA(ヨーロッパサッカー連盟)の指導で、「国際試合週間」を固定し、全加盟国が同じようにリーグ戦を休みにする方式をとっている。
代表選手の大半が国外のクラブでプレーしているフランスが世界チャンピオンとなり、ワールドカップのベスト8のうちヨーロッパが7チームも占めることができたのは、代表にしっかりと時間をかける日程が通年で組まれているからなのだ。
イタリア代表は27日土曜日にデンマークと重要な予選試合を戦う。当然、今週末のセリエAはお休みだ。イングランドもドイツもスペインも、ヨーロッパ全土でそろってリーグ戦は休みとなる。だから、ブラジル代表のアジア遠征が可能になった。そして中田も日本代表に戻ってくることができるのだ。
もし世界中で年にいくつかの「国際試合週間」を決め、それに合わせて国内リーグを調整できれば、クラブにも代表チームにも都合のいい、そして何よりも選手にとって無理のない試合日程をつくることができるはず--。これが、現在世界サッカーの最大の課題になっている「カレンダー問題」である。
FIFA(国際サッカー連盟)のブラッター会長は、世界のカレンダー統一を提案している。UEFAを中心に、2004年までの日程はほぼ固まってしまっている。だから、その翌年、2005年からは、世界で統一したカレンダーでやっていこうというのだ。その私案では、シーズンを2月から11月とし、各国の国内トップリーグを16チーム以内にするという。
ヨーロッパでは、秋から翌年夏にかけての越年シーズン制の国が圧倒的に多い。国内リーグは18チームがUEFAの基本だ。アジアでは、イスラム圏の国に毎年一定しない断食月がある。北から南、西から東へと大きく気候風土が違い、シーズンを合わせることも簡単ではない。世界のカレンダー統一には、多くの障害がある。
しかし「サッカーの王様」ペレはこう主張する。
「完璧なカレンダーをつくることなどできないだろう。しかしいいカレンダーをつくり、それを基本に世界のサッカーを展開することはできるはずだ」
世紀の変わり目、サッカーの世界も大きな変化へのうねりが始まっている。
(1999年3月24日)
1993年から東京新聞夕刊で週1回掲載しているサッカーコラムです。試合や選手のことだけではなく、サッカーというものを取り巻く社会や文化など、あらゆる事柄を題材に取り上げています。このサイトでは連載第1回から全ての記事をアーカイブ化して公開しています。最新の記事は水曜日の東京新聞夕刊をご覧ください。