サッカーの話をしよう
No.262 ナイジェリアではワールドカップは無理
「スタジアム、トレーニング施設、ホテル、移動手段、すべてが申し分ない。セキュリティの面で心配する人もいたが、何の問題もない。ナイジェリアを開催国に選んだことを、FIFAは誇りに思う」
「これは、アフリカで国際イベントができるという何よりの証明であり、2006年のワールドカップをアフリカにもってくるのが論理的に正しいという私の考えに確信をもった」
ナイジェリアで行われているワールドユース選手権の日本の初戦が行われたカノで、FIFA(国際サッカー連盟)のヨゼフ・ブラッター会長は自信にあふれた表情で語った。
日本と韓国が激しく招致を争ってから3年。早くも次の2006年大会の開催国決定の話題が盛り上がっている。
昨年の12月に締め切った立候補申し込みには、驚くことに8つもの協会が開催の意思を表明した。ヨーロッパからドイツとイングランド、南米からブラジル、そしてアフリカからは、エジプト、モロッコ、ナイジェリア、ガーナ、南アフリカと、なんと5つもの国が立候補しているのだ。
かつて、ワールドカップが2回連続してヨーロッパを離れたことはなかった。UEFA(ヨーロッパサッカー連盟)は、2006年大会まではその「既得権」を主張している。
しかしブラッター会長は、事務総長時代から一貫して「アメリカの番」を唱えてきた。ドイツとイングランドという、文句のつけようのない「サッカー大国」があったとしても、94年アメリカ、98年フランス、そして2002年日本・韓国ときたら、次はアフリカというのが論理的だと言い続けてきた。
その裏には、FIFAとブラッター会長への挑戦の姿勢を年ごとに深めるUEFA、そしてその会長であるレンナート・ヨハンソンへの対抗策として、アフリカからの支持を手放すわけにはいかないという事情がある。ヨーロッパ諸国からの反対を制して今回のワールドユースをナイジェリアで強行したのも、そのひとつの現れなのだ。
しかしこのナイジェリアでの大会をふまえて「ワールドカップ開催の資格は十分」というのなら、あまりに無責任だ。
ナイジェリアの人々はすばらしく親切で、サッカーも心から愛している。代表チームも優勝候補に挙げられる強豪だ。その面では、日本も韓国も足元にも及ばない。しかしスタジアム施設が貧弱なだけでなく、トレーニング施設も十分ではない。何よりも、大会を開催するためのインフラがまったく不足している。交通手段、通信手段、宿泊施設、すべてが足りない。さらに、衛生状態が悪く、伝染病の心配も無視できない。
大会までに大きく改善されるものもあるだろう。しかし7年後に、すべて万全の状態でワールドカップを迎えられるとは、とても考えられないのだ。
多くの人が見るところ、アフリカで唯一ワールドカップ開催が可能なのは南アフリカだ。インフラの面でもまったく問題はないという。
サッカー王国ブラジルは、施設の老朽化ととともにインフラ整備の見通しが立たず、こちらも現実的ではないようだ。結局のところ、可能性があるのは、ドイツ、イングランドと、南アフリカということになる。
「アフリカで開催というが、いったいどの国なんですか」
記者会見の席上、ブラッター会長にナイジェリアの記者から鋭い質問が飛んだ。会長は苦笑しながら「アフリカとは、アフリカです」としか応えなかった。
2006年ワールドカップの開催国は、来年3月のFIFA理事会で決まる。あと1年、アフリカの動きからも目を離すことができない。
(1999年4月14日)
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