サッカーの話をしよう
No.285 でこぼこのグラウンドに負けるな
先週土曜日(10月2日)のカザフスタン×タイ戦で、シドニー・オリンピックのアジア最終予選C組がスタートを切った。
両国に日本を加えた3カ国で1つの代表権を争う。「ホームアンドアウェー」方式、すなわち、互いのホームで1試合ずつ戦うリーグ戦だ。
3チームの戦いで最後に登場する日本。ライバルたちのプレーぶりを先に見ることができたのは、大きなアドバンテージだ。しかも、最初のカザフスタン戦を乗り切れば、東京で試合が連続する。2日の試合が0−0の引き分けだったことで、バンコクでの最終戦を待たずに出場権獲得の可能性も出てきた。
2日の試合は、その日の深夜にテレビ放映された。私が注目したのは、両チームの戦いではなく、グラウンドコンディションだった。ちょうど2年前、ワールドカップ予選をここで戦ったときには、非常にでこぼこが多かったからだ。
テレビで見た限り、芝生の状態は2年前とほとんど同じだった。きれいな緑なのだが、グラウンダーのパスは10メートルも走ると細かなバウンドを始める。ドリブルも、足元に転がしているはずのボールがあちこちにはね、非常にやりづらそうだ。
Jリーグが始まって以来、日本のスタジアムのグラウンドコンディションは非常に良い状態が保たれている。
かつては、雨水を流すために、中央から外側に向かってゆるやかに傾斜していた。しかし現在は地下排水システムにより完全にフラットになった。しっかりとした手入れと管理ででこぼこもなく、短く刈り取られた芝は、現在の日本が得意とする速いパスを主体とするプレーをフルに生かしてくれる。
そうした「最高のグラウンド」に慣れきった現在の日本選手たち。アルマトイのスタジアムで急にでこぼこのグラウンドになったとき、大きくリズムを狂わせないか、それが心配なのだ。少なくとも、2年前の日本代表チームはその影響をひどく受け、引き分けに持ち込まれた。
少し気になるのは、今回の試合の直前合宿をドイツで行ったことだ。ドイツはグラウンドの芝生の状態では世界最高水準の国で、どこに行ってもJリーグ・スタジアム程度のグラウンドがある。
実は、その結果、現代のドイツは、世界で最もグラウンドコンディションに影響されるチームになってしまっている。以前、国立競技場のグラウンドが改善される前のトヨタカップでは、ドイツの選手たちはボールコントロールに苦しみ、試合運びがぎくしゃくして苦戦した。
スポーツニュースでは、トルシエ監督がヘディングの練習に力を注いでいることが紹介された。「長身ぞろいのカザフスタン対策」と解説されていたが、むしろ、グラウンドコンディションに関係のない空中戦で勝負をつけようというアイデアと、私には見えた。2年前のワールドカップ予選で、日本がアルマトイで記録した唯一の得点は、右CKに秋田が飛び込んで頭で叩き込んだものだった。
ただ、今回のチームは、ボールテクニックの面で2年前のチームをはるかに上回っている。それが、グラウンドコンディションに対する私の不安を杞憂に終わらせるかもしれない。
ことしの4月にワールドユース選手権が行われたナイジェリアのグラウンドは、アルマトイほどではないが、かなりの凹凸があった。しかし日本の選手たちの技術は、それをものともしなかった。多少イレギュラーバウンドしてもコントロールの精度が落ちないのは、このチームの技術的な特徴でもある。
さて、10月9日、アルマトイのグラウンドは、日本チームを相手にどんな「パフォーマンス」を見せるだろうか。
(1999年10月6日)
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