サッカーの話をしよう

No.293 サッカーピープルから離反したJAWOC

 「日本サッカー協会はどうしちゃったのかな?」
 昨夜東京で行われた2002年ワールドカップの予選抽選会に、世界の各地からたくさんのサッカー関係者や報道陣がやってきた。そのなかの以前から日本のサッカーとなじみの深い人びとから、異口同音にそんな言葉を聞いた。
 いまワールドカップの準備を進めているのは、「財団法人2002年FIFAワールドカップサッカー大会日本組織委員会」、略称JAWOCである。
 ワールドカップは単なるスポーツイベントではない。「人類の祭典」にふさわしい大会にするには、国家レベルでの受け入れ体制が必要になる。
 この大会を日本にもってこようという努力は(財)日本サッカー協会を中心に行われたが、いったん開催が決まれば、政府や会場地の自治体、そして数多くの民間企業が力を合わせての準備となる。サッカー界を超えたところでJAWOCが組織されるのは当然のことだった。

 しかしそのJAWOCは、いったいどんな大会を作り上げようとしているのだろうか。抽選会をクライマックスとする約1週間の様子を見て、「これは大変なことになるかもしれない」という、恐怖にも似た危機感が襲ってきた。
 3日金曜日に、JAWOCは抽選会の司会者やゲストの顔ぶれを発表する記者会見を開いた。そのなかに、浦和レッズの小野伸二選手の名があった。
 「なぜ、ナカタがこないのか。ペルージャが拒否したのか」
 会見の席上、外国人記者からこんな質問が出た。
 「たしかに、中田選手は現在の日本のナンバーワンで、世界にもよく知られています。しかし彼より二歳若い小野選手も、勝るとも劣らない才能の持ち主です。2002年大会では、必ず世界に注目されるはずです。いま、この時点で彼を知ることは、あなたにとっても非常に有意義だと思いますよ」

 そんな答えが聞かれるのではないかと、内心期待した。しかしJAWOCの遠藤安彦事務総長の言葉は、耳を疑いたくなるようなものだった。
 「人選はサッカー界にお願いした。国内にいる選手のほうが都合がよかったのでしょう」
 驚くべきことに、ワールドカップ日本組織委員会の事務総長は、「サッカー界」の人ではなかったのだ。
 現在、JAWOCには200人近いスタッフがいるが、サッカー協会から出ているのは役員(理事)2人、職員4人の計6人にすぎない。それ自体は問題ではない。問題なのは、自治省出身の遠藤事務総長の言葉に代表されるように、サッカーに興味をもっていない、あるいはサッカー愛好者の心を理解していない人が少なくないことだ。
 ワールドカップはたしかに「国家的行事」である。だがそれ以前に、ファン、選手、審判、コーチなど、世界中の「サッカー・ピープル」の夢の大会でもある。こうした人びとの気持ちを理解できずに、どんな大会を準備しようというのか。

 世界の各地からきたサッカー関係者や報道陣は、JAWOCのそうした傾向を敏感に察知したに違いない。だから「サッカー協会はどこにいるのか。何をしているのか」という、冒頭の言葉が出たのだろう。
 2002年大会を、日本と世界の「サッカー・ピープル」のための大会にしなければならない。そのために、日本サッカー協会にはより積極的な関与と最大限の努力を期待したい。
 同時に、日本の「サッカー・ピープル」も、JAWOCから与えられる大会を待つだけではいけないと思う。みんながもっと積極的にワールドカップに「参加」することが、「軌道修正」の大きな力になるはずだ。

(1999年12月8日)
クリエイティブ・コモンズ・ライセンス

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