サッカーの話をしよう
No.300 選手とレフェリー もっとコミュニケーションを
英国「タイムズ」紙によると、イングランド協会は今週の月曜日に重要な会合を開催したという。最近イングランドではイエローカードが急増し、レフェリーと監督、選手間の関係が悪化する一方。それを止める方向を探る会議だ。
召集されたのは、プレミアリーグ、1部リーグ、リーグ監督協会、プロ選手協会、そしてレフェリー協会の代表者たち。リーグ、監督、選手たちからは、そろって「イングランドのレフェリーはあまりに簡単にイエローカードを出しすぎる」という不満が出ている。
失点のピンチに、相手をつかんだり意識的にファウルするなど不正な手段で妨害する行為、後ろからの危険なタックルなど、厳しい罰則を課するに値する悪質な反則もある。しかしその一方で、ちょっとしたばかげた行為にも同じ「イエローカード」1枚が出される。結果としてイエローカードは増える一方で、それが試合結果やリーグ戦の行方にもかかわってくる。
プレミアリーグでは、昨年10月に行われたアストンビラ対リバプール戦で11人もの選手にイエローカードが出され、退場者もひとり出た。
試合中にレフェリーが選手を罰する方法には「イエローカード」と「レッドカード」しかない。そして国際サッカー連盟(FIFA)がルール改正でイエローカードの適用範囲を毎年のように広げてきた結果、現在ではイエローカードで罰せられる反則や悪質な行為の範囲はあまりに広い。レフェリーたちがルールに忠実であろうとすれば、荒れた試合でなくても1試合に5枚や6枚は当たり前になる。
イングランド協会のトンプソン会長は、さらに、近年のテレビ中継技術の改善がレフェリーたちに大きなプレッシャーになり、判定が厳しくなる原因になっているのではないかと語る。
「デジタル技術の向上で、テレビ側はピッチ上の全選手をカメラで追うことさえできるようになった。そして、何かが起こると、瞬時にスロービデオで問題の選手の行為を再現する。ほんのすこしの間違いも許されないというレフェリーのプレッシャーは大変なものだ」
昨年のワールドユース選手権準決勝では、日本のキャプテン小野伸二が、ケガの治療をしていた味方選手の復帰をレフェリーにうながすためにスローインをちょっとためらったことでイエローカードを受けた。小野にとってはこれが決勝トーナメントでの2枚目のカードで、決勝戦には出場できなくなった。ワールドカップでもJリーグでも、こうした例はいくらも見ることができる。
それを避けるには、選手がルールをよく理解し、節度をもった行動をとることが何よりも求められる。しかしそれと同時に、レフェリーの取り組み方も重要な要素だ。
「ルールを振りかざすのではなく、選手にもっと話しかけ、コミュニケーションをとって試合を導いていくことが必要ではないか」と語るのは、プレミアリーグのレフェリー委員長であるフィリップ・ドンだ。
Jリーグでは、ここ数年、スコットランド人のレスリー・モットラム氏の影響か、選手に穏やかに話しかけるレフェリーが増えてきたように思える。しかしその一方で、「問答無用」とばかりにイエローカードを振りかざすレフェリーがまだいるのもたしかだ。
日本の第一人者である岡田正義レフェリーは、「良いレフェリングとは、試合を通じて選手、チームとの信頼関係を築くこと」と話している。
信頼関係への第一歩は言葉をかけ合い、コミュニケーションをとることだ。ことしは、笑顔で選手たちと話すレフェリーたちの姿をもっと見たいと思う。
(2000年2月2日)
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