サッカーの話をしよう
No.312 Jリーグ規約違反の「最強チーム」
今月中旬に行われたJリーグ・ヤマザキナビスコ・カップの1回戦で、アビスパ福岡とジェフ市原がそれぞれリーグ戦と大幅に違うメンバーを出場させた。前後のリーグ戦と比較すると、アビスパは10人、ジェフは9人メンバーが違った。これがJリーグ規約の「最強のチームによる試合参加」義務に違反していると問題になっている。
「Jクラブは、その時点における最強のチーム(ベストメンバー)をもって前項の試合に臨まなければならない」(Jリーグ規約第四十二条)
「前項の試合」とは第四十条に掲げられている「公式試合」を指し、J1、J2のリーグ戦だけでなく、リーグカップ戦などが指定されている。
4月12日の第1戦を前にJリーグはアビスパに注意を与えたが、ピッコリ監督は「これが現時点でのベストメンバー」と予定どおりのメンバーで平塚でのベルマーレ戦に臨んだ。同日、大分でのトリニータ対ジェフ戦でも、ジェフがリーグ戦とまったく違うメンバーで出場した。
試合後、Jリーグは両クラブに警告を発した。両クラブともその週末のリーグ戦は本来のメンバーに戻したが、翌週の水曜日、4月19日のナビスコ杯1回戦第2戦では、アビスパは1週間前と同様のメンバーで押し通し、ジェフはリーグ戦に近いメンバーを起用した。
「最強のチーム(ベストメンバー)」という規約の用語が非常にあいまいで、「ベストメンバーは監督が決めるもの」、「試合に勝ったんだから文句はないはず」などの意見が出ている。
私は、この規約はJリーグの公正さを保証するために非常に重要な意味をもっていると考えている。クラブや監督が試合の重要性を勝手に判断して力を落とすチームを出すことなどあってはならないからだ。
そしてこの規約での「最強のチーム」とは、当事者の主観ではなく、前後の試合の出場選手などから、常識の範囲内で客観的に判断されるべきものと思う。そう見れば、アビスパとジェフの規約違反は明らかだ。
今回のケースは、試合が通常のリーグ戦ではなくカップ戦であったこと、前後の試合が非常に込み合っており、しかもアビスパは長距離の遠征が重なる非常識な状況であったことなど、考慮に入れるべき点は多い。4月8日土曜日に磐田でジュビロと対戦したアビスパは、12日には平塚に遠征してナビスコ杯の1回戦を行い、また戻って15日に柏レイソルを迎えるという日程だった。しかもレイソルはナビスコ杯1回戦をシードされていて、12日には試合はなかった。大事なリーグ戦を万全のコンディションで迎えるために、12日は主力選手をを遠征させたくないというピッコリ監督の思いは理解できる。このような不公平な日程にしたJリーグにも責任の一端はある。
しかしいかなる理由があろうと、重要な規約を破ったのは動かし難い事実だ。制裁の対象になるのは当然のことと思う。
理解しがたいのは、制裁を受けるのがアビスパだけで、ジェフは対象にならないと、Jリーグ幹部のひとりが発言していることだ。ジェフは、Jリーグの警告を受けて第2戦ではベストメンバーに戻すべく努力したからだという。
今回の「事件」がややこしくなった原因のひとつに、Jリーグの幹部が本質論である「規約の意味」を語らず、感情論が多かったことがある。
12日の試合で規約違反のチームを出場させたことでは、ジェフもアビスパも変わるところがない。当然、ジェフも同じように制裁の対象となるはずだ。
最終的にどんな制裁が適当か、チェアマンに諮問するJリーグ「裁定委員会」の見識ある判断を待ちたいと思う。
(2000年4月26日)
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