サッカーの話をしよう
No.322 名古屋グランパス チームを守る「戦力外通告」
名古屋グランパスが主力の日本人3選手がチームの戦力構想から外れたことを発表した事件は、グランパスだけでなく、全国のファンを驚かせた。
「戦力外」とされたのは、日本代表DFとしてモロッコでのフランス戦でも活躍した大岩剛選手(28)、日本代表の右アウトサイドでレギュラーに近い位置を得ているMF望月重良選手(27)、そして98年ワールドカップ代表でもあった左サイドのMF平野孝選手(25)。
原因はジョアン・カルロス監督(44)との衝突のようだ。
グランパスでも中心になるべき3選手の練習態度などに腹を立てたジョアン・カルロス監督が3人をチームから外し、直後の試合でジュビロ磐田に大敗した。監督は即座に辞任を申し出たが、クラブ側は監督を慰留し、逆に3選手を「切る」という荒療治に出たのである。
現在、3選手はいずれも「名古屋が好きだから残りたい」と、Jリーグ選手協会に仲介を求める動きも出ている。しかし先週土曜日のリーグ戦前、クラブは3人を切った理由を地元サポーターに直接説明し、「戦力外」という考えを再確認した。
スター選手と監督の衝突は、世界のどこにでもある。別に目新しい事件ではない。しかし多くの場合、どちらが正しいかに関係なく、監督のほうが犠牲になる。監督の代わりはいくらでもいるが、スター選手を探すことは非常に難しく、また高い移籍金を必要とするからだ。
名古屋の場合、昨年もこの3選手と監督の衝突があり、そのときには田中孝司監督が辞任に追い込まれた。しかし今回は、クラブはジョアン・カルロス監督を全面的に支持し、レギュラー選手3人を切った。
これは、監督の言い分が正しく、選手が間違っていると、クラブが判断したわけではないと思う。そうではなく、「力関係」で監督が勝ったのだ。
ジョアン・カルロス監督は、96年から98年まで鹿島アントラーズで監督を務め、96年には年間優勝、97年には第1ステージ優勝を飾っている。厳しい指導で規律にあふれたチームをつくることで評価が高い。
来年からストイコビッチ抜きで戦わなければならないグランパスにとって、大事なのは若いタレントを育て、集団で戦うことのできるチームをつくることだ。そのためには、ジョアン・カルロスの手腕がどうしても必要となる。
一方、今回戦力外通告を受けた3手は、「何が何でもこの3人を中心にポスト・ストイコビッチのグランパスをつくる」という結論を、グランパスに出させることができなかった。クラブの「査定」において、ジョアン・カルロスに敗れたというわけだ。それは、シーズン終了後に、次年度の新戦力との比較で戦力外通告を受ける場合と何ら変わりはない。
このような状況下で「プロ選手」にできることは、新しい働き先を探すことだけだ。選手協会やファンに働きかけてクラブの決定に影響を与えようとするなど、時間の無駄だ。
3選手の実力について疑念はない。3人ともまだ十分若く、Jリーグの選手としても、また日本代表選手としても大きな可能性をもっている。1日も早く自分の置かれた状況を認識し、それぞれに新しい活躍の場を探してプレーに復帰すべきだ。
サッカーというゲームは、スターの数で勝負を決めるものではない。それは、今季JリーグでのFC東京の試合ぶりや、ヨーロッパ選手権準決勝で強敵オランダを倒したイタリアが、身をもって示している。
名古屋グランパスの選択は、監督以下、選手全員が心を合わせて戦うことのできるチームをつくることだった。
私は、その結論を支持する。
(2000年7月12日)
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