サッカーの話をしよう

No.325 ハーフタイムはリラックスしたい

 「ハーフタイムくらい、リラックスしたいなあ」
 強く思ったのは、ヨーロッパ選手権のときだった。
 オランダとベルギーの共同開催で行われたこの大会は、当然、試合の運営も両国の間で違いがあった。ふだんの国内リーグや国際試合でそれぞれにやっている方法がそのまま使われたのだろう。もちろん、観客の絶対数からすれば、それぞれの地元の人がいちばん多いのだから、この考え方は間違いではない。
 しかし、ベルギーでの試合のキックオフ前、そしてハーフタイムの騒々しさには閉口した。性能の良い巨大スピーカーから、大会の公式ソングなどのロック音楽が大音響で流れてくる。それは、選手が入場してキックオフを待つ間にも鳴り止まず、主審がキックオフの笛を吹くと、ようやくおさまるのだ。

 ハーフタイムにはいると同時に、また大音響でハイテンポのロック音楽が始まる。そしてそれは、後半のキックオフの笛が鳴るまで、途切れることなく続くのだ。いやはや...。
 音楽を流すのは、観客を楽しませようという目的に違いない。実際、音楽に合わせて踊ったり、楽しそうにいっしょに歌っているファンもたくさんいる。
 しかし私は、これは間違った考えだと思う。完全に主客が転倒しているからだ。
 「主」とはサッカーのことだ。ヨーロッパ選手権の観客は、どちらかのチームのサポーターか、あるいは熱心なサッカーファンのはずだ。彼らは、間違いなく「サッカー」の試合を見るために高い入場料を払っている。試合主催者の責務は、何よりもまず、その試合を最大限に楽しんでもらうことではないか。
 ベルギーの試合運営は、まるで、「サッカーはつまらないかもしれませんから、せめて試合前やハーフタイムに楽しんでいってください」と言っているように感じられる。それは、試合の生中継中にクイズを流したり、サッカーに関心のないタレントを呼んできて話をさせたりする日本のテレビ局と同じ発想だ。

 そしてまた、これほどでなくても、現在のJリーグのクラブにも、結果的に似た発想の試合運営をしているところがいくつもある。試合前やハーフタイムにディスクジョッキーのような人が試合の流れやスタンドの反応に無関係にはしゃぎまくっているスタジアム、人気タレントを呼んでハーフタイムに盛り上げようというスタジアム。いずれも、自分たちのチームや、サッカーの試合そのものの魅力を信じていない結果だ。
 試合前には、少々にぎやかな時間があってもいい。しかし基本的には、軽めの音楽を、ボリュームを絞って流してほしい。そして選手が入場してからは、スタンドの興奮が盛り上がるままに任せてほしい。キックオフは、ファンにとって待ちに待った「開演」のときなのだ。余計な演出などつけないでほしい。

 そしてハーフタイムは、固唾を飲んで見守っていた45分間から「解放」されるとき。席から立って背伸びをしたり、トイレに行ったり、前半のプレーを語り合うときなのだ。ここでは、何よりもリラックスできる軽い音楽にしてほしい。
 私の音楽の趣味を押し付けようというのではない。ハーフタイムが終わって選手がふたたびピッチに姿を現したとき、それまでにリラックスしていれば、ホイッスルとともに自然に試合に集中することができるのだ。
 何とかファンを楽しませようというサービス精神はわかる。しかしまずはサッカー自体の魅力を信じ、それをフルに楽しむことができる環境をつくる努力をするべきだと思う。
 ハーフタイムは「退屈な待ち時間」ではない。後半の45分を楽しむために、リラックスできる時間であってほしいのだ。

(2000年8月2日)
クリエイティブ・コモンズ・ライセンス

サッカーの話をしようについて

1993年から東京新聞夕刊で週1回掲載しているサッカーコラムです。試合や選手のことだけではなく、サッカーというものを取り巻く社会や文化など、あらゆる事柄を題材に取り上げています。このサイトでは連載第1回から全ての記事をアーカイブ化して公開しています。最新の記事は水曜日の東京新聞夕刊をご覧ください。

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