サッカーの話をしよう

No.332 快適だったシドニーのスタジアム

 オリンピックのサッカーはカメルーンの優勝で幕を閉じた。大会前の予想どおり、上位10チームほどは本当に力の差がわずかで、ちょっとした運不運、調子の波によって結果が左右された大会だった。
 オリンピックという1都市開催を原則とする大会において、サッカーは非常に特殊な大会運営が行われている。シドニーでも試合が行われたが、大半の試合が、数百キロ以上離れた別の都市で行われるからだ。今大会も、ブリスベーン、キャンベラ、メルボルン、そしてアデレードの4都市がサッカーだけの会場となった。
 各都市では、最初の試合日に簡単な「オープニング・セレモニー」まで行われた。日本がグループリーグの最初の2試合を戦ったキャンベラでは、シドニーで大会開会式が行われる2日前の9月13日に最初の試合が行われ、町を挙げての歓迎ムードがスタジアムを包んだ。

 日本代表の試合とともに、オーストラリア3都市のスタジアムで試合を見た。キャンベラはラグビーとサッカーに使われる「球技場」、ブリスベーンは通常はクリケットに使用されるスタジアム、そしてアデレードはサッカー専用競技場。そのすべてに感心させられた。観客の立場に立った「快適さ」が徹底されていたからだ。
 今回は取材パスがなく、チケットを買い、一般席での取材だった。しかしスタジアムでメモを取りながら取材し、ホテルに戻って記事を書いて東京に送るという作業は、何の苦痛もなかった。おそらく、日本チームを応援していた人のほとんどが、私と同じように「快適さ」を感じたのではないだろうか。
 その第1は、「足」の快適さだ。どのスタジアムも鉄道駅には隣接していなかったが、都心からシャトルバスで簡単に行くことができた。

問題は短時間に人が集中する試合後なのだが、大量のバスが待機していて、数万の観客を一気に運び去っていく。それも、満席になったらすぐに発車し、次のバス、次のバスに乗せていくから、すし詰め状態などにはならず、ゆっくり試合の話をしながら帰ることができた。
 第2は、トイレと売店の多さだ。キャンベラは寒かったので、トイレに長蛇の列ができるのではないかと思ったが、各ゲートの近くに大きなスペースでトイレがつくられており、いちばん混雑するハーフタイムにも行列はできなかった。
 冷たい飲み物や軽食を売る売店の数も非常に多く、係員の手際がよく、しかもレジの場所が実に人の流れを計算していて、非常に効率が良かった。
 そして第3に、座席の広さと快適さだ。全席が独立した個席で、前の席との距離、ひとつの席の幅がしっかりととってあり、しかも椅子はすべて高い背もたれのついた跳ね上げ式だった。「ひじかけ」に飲み物用のホルダーがついている席も多かった。

 いずれも「巨大スタジアム」というわけではなかったが、たくさんの人を入れる以前に、観戦に訪れた人が本当にスポーツを楽しめるように考えられていることが伝わってきた。
 スポーツ観戦は「苦行」であってはならない。どんなにいい試合を見ることができても、帰りにぎゅうぎゅう詰めの電車に何十分も乗らなければならなかったり、トイレや売店で待たされて後半の開始に席に戻ることのできないようなスタジアムでは、心からスポーツを楽しむことなどできるわけがない。
 「快適なスタジアム」の実現には、もちろん施設の充実が第一だ。しかし運営でカバーできる面もたくさんある。2002年ワールドカップの各会場が観客にとって本当に快適なスタジアム計画であるかどうか、もういちど見直してほしいと思う。

(2000年10月4日)
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サッカーの話をしようについて

1993年から東京新聞夕刊で週1回掲載しているサッカーコラムです。試合や選手のことだけではなく、サッカーというものを取り巻く社会や文化など、あらゆる事柄を題材に取り上げています。このサイトでは連載第1回から全ての記事をアーカイブ化して公開しています。最新の記事は水曜日の東京新聞夕刊をご覧ください。

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