サッカーの話をしよう
No.350 ワールドカップチケット販売は公正に
今回は、「本当は書きたくない話」を書く。ワールドカップのチケット申し込み受け付けスタートの話題だ。
まあ聞いてほしい。
先週のある晩、テレビの人気ニュース番組を見ていたら、この話の特集があった。その最後に、キャスターに話が振られると、彼はこう答えた。
「私ですか? もちろん申し込みますよ」
思わず叫んだ。
「あなたは申し込まなくてもいい!」
そのキャスターは、日常の発言ぶりから、どう見てもサッカーに興味のない人だったからだ。
サッカーに興味はない。ワールドカップもどうでもいい。しかし今回の騒ぎを見ていると、プラチナチケットになるのは確実。もし当選すれば、何かの役に立つかもしれない----。
そんな気持ちで申し込み用紙を手にする人も少なくないのではないか。人気ニュース番組で特集を組むことによって、本来なら興味のなかった人まで「申し込まなければ」という空気に感染され、その結果、倍率をさらに高くしてしまうのではないか。そう強く感じたのだ。
これまでサッカーに興味のなかった人が、ワールドカップだから見たいと思うことが悪いというのではない。ワールドカップをきっかけに熱烈なファンになることもある(私もそのひとりだった)。しかし自分で見に行く気などないのに、大騒ぎになっているからとりあえず申し込みをしようというのは困る。
熱心なサッカーファンにすれば、「そんなに騒がないでくれ」と言いたいのではないか。本当にワールドカップを見たいと思っている人に販売システムがわかるようにしてくれれば十分というのが、偽らざる気持ちではないか。だから私も「書きたくない」のだ。
3年前、98年ワールドカップで日本のファンを襲った悲劇を忘れてしまった人はいないだろう。日本の初めてのワールドカップ出場を見ようと、旅行会社企画のツアーに申し込んだ人の多くが、大会の直前になって「チケットがありません」という知らせを受け取った。日本の旅行会社が大規模な詐欺にあったためだった。
ツアー参加を取りやめた人、ともかくフランスに渡ってチケットを入手しようと努力した人。そのなかでも入手できずにスタジアムの外にいただけの人、とてつもない高額でなんとかチケットを買い、ようやくスタジアムにはいった人。その誰もが、深く傷ついた。
今大会のチケット販売システムは、そうした悲劇を繰り返してはならないと計画されたものだったはずだ。ところが、実際に販売計画が発表されてみると、多くのファンが絶望的な気分に陥ったのではないか。
「日本でワールドカップを開催する」ことは、大多数のファンにとっては、「初めてワールドカップを生で見るチャンス」というイメージだった。しかしそうではなかった。このままでは、状況は3年前とは違っても、そのときと同じような心の傷を、そのときとは比べようもないほど多くの人に残すのではないか。そんな懸念がしてならない。
JAWOCは、そうしたファンの心をしっかりと受け止めなければならない。正直者がばかを見るような思いを絶対にさせないでほしい。外れた人びとが「公平な抽選だったのだから仕方がない」と思えるように、受け付けと抽選を管理してほしい。
そして、国内外で入手されたチケットの「購入権」が、チケット業者、オークション、あるいは旅行会社などを通じて法外な価格で売買されるようなことなどないように、しっかりと監視し、正当な価格でファンの手に渡るよう、最後まで努力を払ってほしいと思うのだ。
(2001年2月14日)
1993年から東京新聞夕刊で週1回掲載しているサッカーコラムです。試合や選手のことだけではなく、サッカーというものを取り巻く社会や文化など、あらゆる事柄を題材に取り上げています。このサイトでは連載第1回から全ての記事をアーカイブ化して公開しています。最新の記事は水曜日の東京新聞夕刊をご覧ください。