サッカーの話をしよう
No.351 改善が見られないテレビ中継
7年間続けてきたJリーグの「優秀放送賞」の審査委員をお役御免となった。ほとんど変わらぬメンバーで務めてきたが、こうした役割にフレッシュさが必要なのは当然のことだ。
審査にあたって、毎年20本以上の放送ビデオを見てきた。試合前、ハーフタイムの使い方、エンディングなどもチェックしなければならない。1試合当たり少なくとも2時間はかかるから、かなりハードな仕事だった。
しかしよく考えると、私は毎年同じような注文をつけ続けてきたような気がする。テレビ中継について書く機会はあまりないので、この際、念仏のように唱えてきた「試合中継への注文」を書いておくことにする。
第1に、メンバーリストは、必ず試合前に出してほしい。すでにストーリーが始まり、重要なせりふが話されているときに、出演者の顔の上に大きく字幕を流し、音声で出演者名を言う映画があるだろうか。試合が始まってからメンバー表を出すのは、それと同じことなのだ。
第2に、4人の審判名を、フルネームで、できればアップの表情を入れて、これも試合前にきちんと紹介してほしい。審判も重要な「キャスト」だからだ。試合が始まって数十分後、トラブルがあったときに「本日の主審は○○さんです」と初めて紹介する中継があまりに多い。
第3に、アナウンサーと解説者は、試合に集中してほしい。試合を楽しみたいとテレビを見ている視聴者の助けになってほしいのだ。展開に関係のないおしゃべりばかりの放送は、逆に、視聴者のじゃまになっている。
第4に、試合中のスコア表記は、必ずホームチームを左にしてほしい。攻撃の方向で示す日本式の表記では、どちらのホームゲームかがわからない。ことしから始まるサッカーくじを考えても不都合だ。
第5に、リプレーは、試合の流れを見て入れてほしい。チャンスの直後に挿入した無考えなリプレーで、大事なシーンが見られないことがある。リプレーはテレビ中継の最大の強みだが、それが致命的な放送ミスにつながることもある。
第6に、アナウンサーと解説者はしっかりとルールを勉強してほしい。オフサイドのルールと審判法を明確に理解していない解説者が跡を絶たない。
第7に、試合そのもので楽しませてほしい。余計なクイズを入れて試合中継を中断するなど主客転倒だ。
第8に、アップを減らしてほしい。プレーの流れがわからなくなるからだ。第9に...。このくらいにしておこう。
7年間の審査で見た番組で最も印象的だったのは、95年の11月に放送されたテレビ東京制作の「浦和レッズ対横浜マリノス」だった。
試合も一進一退だった。2−2の同点からPK戦となり、レッズが5−4で勝った。その試合の1プレー1プレーを、担当したテレビ東京の斉藤一也アナウンサーが的確に伝えていたのに、非常に感心した。話すリズムが試合のリズムと重なり、心地良く試合に引き込まれた。
同時に、映像の見事さにも感心させられた。中継は浦和の駒場スタジアムにかかる満月のアップから始まり、次第にカメラが引いて満員のスタジアムが映し出された。そしてエンディングは、最後のPKを決めたレッズのバインが、チームの歓喜の輪に加わらず、マリノスのGK川口のところに歩み寄って声をかけるシーンだった。
この年デビューしたばかり、20歳の川口は、がっくりとひざをついていたが、バインの言葉にうなずくと、少年のような笑顔を見せた。
あわただしい中継作業のなかで、番組をこの美しいシーンでしめくくった編集者のセンスに、私は素直に脱帽した。
(2001年2月21日)
1993年から東京新聞夕刊で週1回掲載しているサッカーコラムです。試合や選手のことだけではなく、サッカーというものを取り巻く社会や文化など、あらゆる事柄を題材に取り上げています。このサイトでは連載第1回から全ての記事をアーカイブ化して公開しています。最新の記事は水曜日の東京新聞夕刊をご覧ください。