サッカーの話をしよう
No.354 totoスタート 遠すぎた幸運の窓口
Jリーグの2001年シーズンが開幕した。ことしは、例年以上にこの日が楽しみだった。サッカーくじ(toto)が始まったからだ。
自信満々だった。手堅い予想をしたので、1等でも数十万円だろうと思っていたが、それでも「必ず当たる」と確信していた。友人たちと予想を話し合うと、誰もが「自分だけは当たる」と思い込んでいるのがおかしく、また楽しかった。
私の期待は、わずか数試合が終わった時点で跡形もなく吹き飛んでいた。「トットと負けましたね」と、仲間の記者たちにからかわれた。
それでも楽しい。本格スタートの第1回(通算第3回)は、全試合的中がわずか2口、1億円という制限いっぱいの賞金が出た。何十回のテレビCMより、よほど強烈なPRになっただろう。
この「第3回」の総売り上げは約8億9000万円だったという。賞金の総額は約4億2000万円。売り上げが少なくても、その割合で当選者の数も減るはずだから、賞金額は売り上げとはあまり関係がない。しかしくじ実施の最大の目的である「スポーツ振興資金」の調達は、まともに影響を受けることになる。
くじからスポーツ振興資金に回されるのは、総売り上げの約23パーセントということになっている。すなわち、「第3回」のtotoでは、約2億円のスポーツ振興資金が生まれたわけだ。
totoを主催する日本体育・学校健康センターは、初年度の総売り上げ目標を800億円としている。目標をクリアすると、180億円以上のスポーツ振興資金が生まれることになる。
しかし「第3回」の売り上げは目標の3分の1ほどにすぎない。同じ程度の売り上げとして単純に計算すると、年30回のtotoで生まれるスポーツ振興資金は、約60億円ということになる。大きな違いである。売り上げを伸ばすことが、何よりも重要な課題だ。
「買いたかったけれど、近所で販売店が見つからなかった」
そんな話をあちこちで聞いた。私の仕事場からも、最寄の販売店までは歩いて10分ほどかかる。
「現在全国に約6000店舗あるのですが、順次増やし、今年度中には約8000店舗にする計画です」
totoを運営する日本スポーツ振興くじ株式会社の池田弘孝広報室長はこう話す。
「オンラインの端末を置くので、電話回線の敷設やテストに時間がかかること、そして販売員の研修もしなければならないので、簡単に増やすことができないのです」
「マルチ」と呼ばれる投票券の書き方が浸透していなかったことも、売り上げが伸びなかった一因といわれている。しかしやはり、手軽に買えないことが最大の痛手だ。私の最寄の販売店は、平日は午後7時までだが、土曜は午後6時まで、日曜日は休みだ。
宝くじ売り場は全国で1万店ほど。しかし大半は駅の周辺など便利な場所にある。totoの販売店に比べると、はるかに「見かける」数は多い。
観戦の楽しさが増えたこと、新しい話題づくりなど、totoのいい面はたくさんある。しかし売り上げが伸びなくては、その本来の目的を達成することはできない。
販売店を増やす、販売時間を延ばすなど、購買者の利便を考えた改善が急務だ。
(2001年3月14日)
1993年から東京新聞夕刊で週1回掲載しているサッカーコラムです。試合や選手のことだけではなく、サッカーというものを取り巻く社会や文化など、あらゆる事柄を題材に取り上げています。このサイトでは連載第1回から全ての記事をアーカイブ化して公開しています。最新の記事は水曜日の東京新聞夕刊をご覧ください。