サッカーの話をしよう

No.356 フランス戦完敗も、得がたい経験

 現地に行くことはできなかったが、日曜日早朝のテレビ中継は、まざまざと「力の差」を見せつけてくれた。0−5。完敗だった。
 フィジカル面だけでなく、技術、判断の速さと正確さ。あらゆる面でフランスは日本のはるか上だった。5失点で止まったのが幸運なほどだった。
 イタリアのローマに所属する中田英寿が、フランスの選手に負けないハイレベルなプレーを見せ、単独突破で3本のきわどいシュートを放った。しかしそれ以外の選手は自分の持ち味を出すこともできない状況だった。
 それは24年も前に見たある試合を思い起こさせた。1977年6月にブエノスアイレスで行われたアルゼンチン対西ドイツの親善試合だ。

 1年後に自国開催のワールドカップを控えるアルゼンチンは、メノッティ監督の下、まったく新しいチームの建設途上だった。2年前に21歳以下のチームの強化からスタートしたメノッティのチームは、ちょうど現在の日本代表のように、若く、才能にあふれ、そして経験に乏しかった。
 前週、ポーランドを迎えての親善試合では、アルゼンチンの技術と才能が発揮され、3−1の勝利をつかんだ。しかし前大会(74年)優勝の西ドイツは、激しいプレッシャーをかけてアルゼンチンを封じた。
 それは、メノッティのチームにとって、初めての「ヨーロッパのトップクラス」との出合いだった。フィジカル面での強さ、守備から攻撃への切り替えのスピードなど、西ドイツのサッカーは、アルゼンチンの選手たちのイメージをはるかに超えるものだった。

 1−3というスコアが示す以上の完敗だった。西ドイツに対抗できたのは、ほんのひと握りの選手だけだった。
 しかし1年後、アルゼンチンは見事なチームとなってワールドカップを初制覇した。個々の選手の判断が驚くほど速くなり、スピードに乗った攻撃のなかでアルゼンチン本来の技術と才能が生かされた。
 77年には西ドイツの激しさに高い技術を消されたアルディレス(現在横浜F・マリノス監督)も、1年間でプレーが見違えるように洗練され、世界のベストプレーヤーのひとりになっていた。
 あのときのアルゼンチンも現在の日本代表も、「大会1年前」の時点で世界のトップに歯が立たない理由は同じだった。それは、「経験」が不足していることだった。

 7万7888人という満員の観衆の前で、フランスは手を抜かなかった。現在の世界で最高レベルのプレーで日本をたたきつぶしにきた。
 ワールドカップの1年以上も前に、世界の最高レベルを体験できたことは、得がたい幸運だった。トルシエ監督が後半のなかばを過ぎて大量の選手交代をしたのは、その経験をひとりでも多くの選手に与えたかったからに違いない。
 失望することはない。このフランスのイメージを、しっかりと脳裏に叩き込み、そのレベルに近づく努力を続けることだ。
 フィジカル面のトータル強化が必要だ。パスの精度を高めなければならない。判断のスピードを上げなければならない。
 2002年ワールドカップへ向け、日本代表強化の最終ステージのスタートとして、これほど有効な試合はなかったように思う。

(2001年3月28日)
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