サッカーの話をしよう
No.359 アメリカで女子プロリーグ始まる
アメリカの女子プロサッカーリーグ(WUSA)がスタートした。
4月14日、首都ワシントンのRFKスタジアムで行われた「ワシントン・フリーダム」対「ベイエリア・サイバーレイズ」の開幕戦には、主催者の予想をはるかに上回る3万4148人がつめかけた。チケット売り場には長蛇の列ができ、ハーフタイム近くになってようやく入場できたファンもいたという。
94年に男子ワールドカップを開催し、いまや国際サッカー連盟(FIFA)のランキング18位と世界のトップクラスに仲間入りしたアメリカ。しかし女子は、そのずっと前から世界の女王だった。女子ワールドカップでは91年の第1回大会で優勝、オリンピックでも正式種目になった96年アトランタ大会で優勝を飾っている。
そして99年に地元で開催された女子ワールドカップでの2度目の優勝が、人気を決定的にした。代表選手は国民的なヒロインとなり、CM契約で年に数億円を稼ぐスターも現れた。
しかし強力なリーグ組織などなく、代表選手たちが安心してサッカーに集中できる環境、そして次代の選手を育てる組織をつくることが必要だった。2000年には代表チームと世界選抜との対戦が全米各地で開催され、女子サッカーの人気を定着させたが、それを恒常的なものにするには、どうしてもプロリーグの結成が必要だったのだ。
1年目のことし、加盟は8チーム。3回戦総当たりで8月中旬までに各チームが21試合をこなし、プレーオフでチャンピオンを決定する。
代表チームの人気を背景にしたリーグだから、8チームにはアメリカ代表選手が均等に振り分けられた。そして、各チーム二十数人の選手のうち原則として3人まで外国人の登録を許可している。
「アトランタ・ビート」というチームには、日本の沢穂希(さわ・ほまれ)選手も、背番号8で登録されている。中国代表のスン・ウェン、そしてかつて日本でプレーしていたカナダ代表のシャーメイン・フーパーとともに強力な攻撃陣を構成する。
世界のサッカー史のなかで、女子リーグがプロとして自立できたことはなかった。WUSAは、徹底した「草の根サッカーファン」の掘り起こしにその命運をかけている。
男子プロリーグMLSの「DCユナイテッド」と同じワシントンにフランチャイズを置く「フリーダム」の女性運営部長ルイーズ・ワクスラーはこのように話す。
「DCユナイテッドは中南米系のファンが中心。彼らは女子サッカーには興味をもっていない。私たちは、首都近郊の8歳から18歳までの女子サッカー選手と、その両親をターゲットにしている。バッティングはしない」
アメリカでは、とくに東海岸とカリフォルニアで女子サッカーが盛んで、その競技人口は10代を中心に数百万人にのぼる。これこそ、WUSA設立の最大の背景だった。
「フリーダム」は昨年秋から数カ月をかけてこの地域でのサッカークリニック、各種イベントに選手を派遣し、「草の根ファン」の開拓に努めてきた。その結果が、開幕戦の大観衆となって現れたのだ。
開幕戦、「フリーダム」は1−0で「サイバーレイズ」を下した。歴史的な決勝点を挙げたのは、ブラジル代表のプレティーニャ。PKだった。その他のチームの初戦は、4月21日に行われる。
世界のトップクラスが集まったWUSA。世界中の女子サッカー選手、そしてファンが、プロとして成功することを期待している。日本からただひとり参加している沢選手の活躍も祈りたい。
(2001年4月18日)
1993年から東京新聞夕刊で週1回掲載しているサッカーコラムです。試合や選手のことだけではなく、サッカーというものを取り巻く社会や文化など、あらゆる事柄を題材に取り上げています。このサイトでは連載第1回から全ての記事をアーカイブ化して公開しています。最新の記事は水曜日の東京新聞夕刊をご覧ください。