サッカーの話をしよう
No.362 努力見えないJリーグの試合運営
Jリーグ1部(J1)の第1ステージも、折り返しの第8節を過ぎた。
プロフェッショナルな戦いで首位を独走するジュビロ磐田にそれに対抗できそうなチームがないのはすこし寂しい。だが観客動員は好調だ。8節までで総入場者はすでに100万人を超えた。1合平均1万6702人。昨年の50パーセント増しという数字だ。
ゴールデンウイークの真っ只中の5月3日に行われた第7節では、8試合に16万6634人、1試合平均2万人を超すファンが集まった。
観客増には、いくつかの要因が重なっている。
第一に、鹿島アントラーズが4回のホームゲームをすべて東京の国立競技場で開催していること。カシマスタジアム改装のための「緊急措置」だが、それが1試合平均2万8996人という最多観客数に結びついている。
第二には、東京スタジアムの完成で、FC東京と東京ヴェルディが観客数を大きく伸ばしていること。ともに昨年の3倍以上にあたる1試合平均2万3000人台だ。今月はさらに静岡県のワールドカップスタジアムと拡大されたカシマスタジアムがオープンする。「新スタジアム効果」は、さらに広がるはずだ。
第三に、浦和レッズのJ1復帰。5月3日には国立競技場を満員にし、平均2万5733人。レッズの大サポーターは、アウェーゲームでも観客増に大きく貢献している。
第四には、「サッカーくじ」(toto)人気がある。1億円の賞金が2度も出たことで、売り場不足をものともせず、売り上げを伸ばしているtoto。それがスタジアムへ人を引き付ける力になっているのはまちがいない。
しかし私は失望している。これほど好材料がそろっているのに、各クラブの「努力」が感じられないのだ。
ファンをスタジアムに呼ぶための宣伝や「営業活動」には力を入れているかもしれない。しかし肝心の試合運営は、何の変化も見えない。
プロサッカークラブの「商品」とは、年に10いくつかのホームゲームである。いくら大声を上げて売り出しをしても、その商品を改善していかなければ、一時的に増えた「お客さま」はまたすぐに去ってしまう。
スタジアムのアクセスを、より快適に、そしてより楽しい雰囲気のものにするために、何かアイデアはないだろうか。試合をフルに楽しんでもらうために、どんなサービスが必要か。スタジアム内で、観客に不要な不快感や苦痛を与えていないか。
試合運営のあらゆる側面において、「もっといいもの」があるはずだ。別にカネなどかけなくても、工夫やほんのすこしの努力で、試合観戦を快適に、楽しいものとし、「商品価値」を上げていくことはできるはずだ。しかしJリーグの各スタジアムを訪れても、そうした努力の跡はまったく伝わってこない。
あるのは、「マニュアル」化した機械的な試合運営ばかり。いつもどおりにやることしか頭にないから、現場の運営スタッフの顔に輝きがない。運営側にうきうきとした気持ちがないから、スタジアムが楽しい場にならない。
「もっとこうしたら」「こんなことをしたらどうだろう」。そんなアイデアが、アルバイトを含めた全運営スタッフのなかから湧き上がるように出て、それが次つぎと実行に移されていくような試合運営こそ、いま必要ではないか。
いくつもの好条件が重なっている。Jリーグの各クラブにとっては「千載一遇」のチャンスに違いない。それを生かすために、知恵を絞り、アイデアを出し、毎試合、前の試合より何か一歩進んだ試合運営に努めなければならない。
(2001年5月9日)
1993年から東京新聞夕刊で週1回掲載しているサッカーコラムです。試合や選手のことだけではなく、サッカーというものを取り巻く社会や文化など、あらゆる事柄を題材に取り上げています。このサイトでは連載第1回から全ての記事をアーカイブ化して公開しています。最新の記事は水曜日の東京新聞夕刊をご覧ください。