サッカーの話をしよう
No.366 大邱への旅
韓国の大邱(テグ)に行ってきた。先週水曜日(5月30日)、コンフェデレーションズカップ開幕戦のフランス対韓国戦の取材だ。
この大会は来年のワールドカップの「シミュレーション」大会。ならば取材側としても、日本と韓国を往復しながら試合を見るシミュレーションをしておかなければならないと思ったのだ。
通常なら、遅くとも試合の前日には現地にはいり、余裕をもって取材できるようにする。しかし連日試合のあるワールドカップでは、「移動日」を設けている余裕はない。当日移動し、試合を見て、翌日、またその日の試合のために移動するという形になる。
大邱は韓国の南部にある。日本からの直行便はない。ソウル、あるいは釜山(プサン)にはいり、そこからの移動となる。国内移動は特急列車の多い鉄道が便利そうなので、移動距離の短い釜山にはいることにする。
ところが水曜日には成田−釜山の便がない。最終的に、羽田から関西国際空港に行き、関空から出ている釜山便を使うことにした。羽田発午前6時30分、関空発9時45分、11時すぎに釜山の金海国際空港に到着した。
すぐにインフォメーションで大邱への移動の方法を聞き、タクシーで空港から15分の亀浦(クポ)駅へ。30分ほど待ち時間があったが、12時27分発の特急「ムグンファ」号で大邱へ向かった。到着は午後1時38分。午後2時にはホテルにチェックインすることができた。試合は午後5時キックオフなので、時間は十分あった。
亀浦駅の出札係が英語のできる人だったので、チケットを買うのは難しくなかった。チケットを見ると、ハングルのほかにローマ字でも出発駅と到着駅名が印刷されている。買ってから「本当にこれでいいのかな」と心配になったときだっただけに、安心した。JRのみどりの窓口で買うチケットには日本語表記しかないことを思い出した。日本語の読めない人は、私のような心配を消すことはできない。
列車の旅は快適だった。韓国南部の田園地帯と山の合間を走る路線からは、田植えを終えたばかりの水田がキラキラと光るのが見えた。大邱までの途中停車駅はわずかふたつ。韓国語のほかに、英語、日本語、そして中国語のアナウンスがあったのに驚いた。
何よりうれしかったのは、運賃が非常に安いことだった。亀浦から大邱まで4200ウォン。日本円でわずか420円だ。東京で地下鉄を乗り継いだら、すぐこれくらいの運賃になってしまう。
翌朝、また釜山国際空港に戻り、こんどは11時の便で成田に向かう。到着が15分ほど早くなったため、午後1時13分発の成田エキスプレスに乗ることができた。東京駅で上越新幹線に乗り換え、4時46分に新潟到着。駅前のホテルに荷物を放り込み、5時半には「ビッグスワン」にはいることができた。
大邱では、タクシーの運転手が、韓国語、英語、日本語の簡単な会話が書かれたパンフレットを片手に、一生懸命にコミュニケーションを取ろうとしていた。町にはハングルの看板しかなく、どこへ行っても「英語はだめ」と言われて困ったこともあったが、大邱の人びとは例外なく礼儀正しく、そして親切だった。大邱駅のタクシー乗り場で割り込みをされたほかは、不快な思いはいちどもなかった。
路線も座席数も十分とはいえないが、日本と韓国の間にはいろいろなルートがある。ワールドカップを機会に多くの日本人が韓国各地を訪れ、日本と日本人にとって「兄弟」のような国と、その心優しい人びとを、もっと身近に感じてほしいと思うのだ。
(2001年6月6日)
1993年から東京新聞夕刊で週1回掲載しているサッカーコラムです。試合や選手のことだけではなく、サッカーというものを取り巻く社会や文化など、あらゆる事柄を題材に取り上げています。このサイトでは連載第1回から全ての記事をアーカイブ化して公開しています。最新の記事は水曜日の東京新聞夕刊をご覧ください。