サッカーの話をしよう
No.374 リーグ戦の効用
関東女子サッカーリーグの前期が終了した。
関東サッカー協会加盟の8都県から1チームずつ出てホームアンドアウェー形式で行われているこの大会。前期7試合を終えて、私のチームの成績は6勝1敗だった。
楽な試合はほとんどなかった。しかし試合を重ねるごとに個々の選手が力を伸ばし、結果としてチーム力が伸びているのが確認できてうれしかった。その最大の要因は、「コンスタントなリーグ戦」だ。
4月29日に開幕し、12月2日に閉幕する今季は、8月いっぱいが休みになるので、ほぼ毎月2試合のペースとなる。私のチームも、4、5月で2試合、6月に2試合、7月に3試合と、コンスタントに試合を消化した。
ひとつの試合が終わると、次の試合まで2週間ほどある。週2、3回の練習だから、5、6回の練習をして次の試合ということになる。
もちろん、年間を通じての練習課題はある。しかし4月の後半から、私は、毎回の練習の重点を、次の試合を想定したものにした。外側からの崩しをするための練習、オフサイドトラップを多用する相手に対する攻めの練習、そして相手との力関係を考えて、いくつかの試合の前には、守備の課題をワンステップずつこなす練習も取り入れた。
守備の練習は、退屈で、ときには苦しいものもあったが、練習の狙いを説明すると、選手たちは意欲的に取り組んでくれた。その結果、6月ごろから試合内容は次第に濃いものとなっていった。ひとつひとつの試合が、明確な意図をもったものとなったのだ。
東京の女子1部リーグは、10チームの1回戦総当たりで年間わずか9試合だった。慢性のグラウンド不足で、日程もなかなか固まらない。しかもその間にふたつのトーナメントがはさまれるから、とてもコンスタントなリーグ戦などできない。関東リーグ参加は今回が2回目だが、改めて「リーグ戦の効用」を知る思いがした。
夏休みになると、毎年いろいろな年代の「全国大会」が行われる。全日本少年サッカー大会から全国高校総体まで、その大半が勝ち抜き形式の大会だ。各年代のチームの目標は、こうした「全国大会」であり、またその予選となる。
そうした大会自体が悪いというのではない。日程をよく考え、十分なインターバル(試合と試合の間に少なくとも1日は必要だ)があれば、良い面もあるだろう。
しかしサッカー選手を育てるのは、やはり「リーグ戦」という大会形式なのではないか。いろいろな相手と、シーズンを通じてコンスタントに対戦し、対戦相手ごとにしっかりと準備して臨む試合を積み重ねることで、その経験が大きな財産となるからだ。
もちろん、私のチームのように対戦相手ごとにテーマを変えるのではなく、コーチによっては、「相手が誰であろうと自分たちのサッカーをする」というポリシーの持ち主もいるだろう。しかしそれも、前の試合で出た課題を、次の試合に向けてこなしていくということで、本質的には変わりはない。
近年では、「リーグ戦の効用」に対する理解が広まり、有力高校チームなどでリーグ戦を組むケースも出てきた。しかし最高目標に連日試合をする勝ち抜き方式の大会がある限り大差はない。1年の最大の目標をリーグ戦にする必要がある。
「リーグ戦の効用」は、選手を育てることだけではない。レフェリーの育成、グラウンド使用の年間均等化、そして試合運営スタッフの養成など、いろいろな側面がある。日本全国のサッカーの「基本」を、リーグ戦にしていかなければならないと思う。
(2001年8月1日)
1993年から東京新聞夕刊で週1回掲載しているサッカーコラムです。試合や選手のことだけではなく、サッカーというものを取り巻く社会や文化など、あらゆる事柄を題材に取り上げています。このサイトでは連載第1回から全ての記事をアーカイブ化して公開しています。最新の記事は水曜日の東京新聞夕刊をご覧ください。