サッカーの話をしよう
No.378 放映されないアジア予選
サウジアラビアが敗れた。
8月25日にイランのテヘランで行われたワールドカップのアジア最終予選A組、イランがサウジに2−0で勝った。前半は0−0。後半、イランがアリ・ダエイのPKで先制、サウジは退場者を出したうえにダエイにもう1点を追加され、完敗を喫した。
「スタンドを見上げたときには、もう勝つしかないと思ったよ」とイランのミロスラフ・ブラゼビッチ監督。98年フランス大会でクロアチアを率いてワールドカップに初出場、3位という偉業を成し遂げた名将だ。
この日、アザディ・スタジアムには10万の観客がつめかけていた。そのすべてが男性である。想像を絶する雰囲気は、「内弁慶」といわれるサウジの選手たちに巨大なプレッシャーになったに違いない。
8月中旬にスタートしたアジアの最終予選。この試合はイランの初戦だったが、サウジにとっては2試合目。1週間前、ホームのリヤドでの初戦で、バーレーンに先制点を奪われて大苦戦し、終了直前にようやく追いついて1−1の引き分けに持ち込むという失態を演じていた。
全8試合のリーグ戦で2試合を終えて勝ち点1。3回連続出場を目指すサウジにとっては、「もう負けられない」というぎりぎりのところだ。
「第2節」を終えたところで、A組をリードしているのは、アラビア湾の人口60万人の島国バーレーン。サウジ戦で引き分けたのに続いて、8月23日にはホームのマナーマにイラクを迎えて2−0の勝利を収めた。
「猛練習が選手たちに自信をもたらした。フィジカルが強くなったので、これまでのように守っているだけでなく、攻撃もバランスよくできるようになった」と、ドイツ人のボルフガンク・ジドカ監督は語る。バーレーンは「ワールドカップ出場の有力候補」といわれたクウェートを1次予選でけ落として最終予選進出。その実力は侮れない。
B組では、「最有力候補」中国が好スタートを切った。25日に瀋陽にUAEを迎えた初戦、開始わずか2分で李小鵬が先制点を奪うと、試合を完全にコントロールし、2点を追加して3−0で勝った。
A組はバーレーン、イラン、サウジ、イラクのほかタイが争い、B組は中国、UAEとカタール、オマーン、ウズベキスタンが争う。両組の首位は自動的に「韓国/日本大会」への出場権を得る。しかし2位になると、もうひとつの組の2位とプレーオフを戦い、勝っても、最後の出場権をかけてヨーロッパのチームと対戦しなければならない。非常に険しい道だ。
日本代表には予選はないが、「予選真っ最中」の日本人もいる。レフェリーたちだ。
すでに8月17日のイラク対タイ戦(バグダード)で岡田正義さんが主審を務めた。副審は石山昇さんと原田秀昭さん、第4審判は太田潔さんだった。今週土曜、9月1日には、タイ対サウジアラビア戦(バンコク)で布瀬直次さん、カタール対中国戦(ドーハ)で上川徹さんがそれぞれ主審を務める。
これらの試合での評価が、来年のワードルカップへの重要な資料となるはずだ。
ところで、アジア予選は、テレビ朝日が全試合の放映権をもっているはずなのだが、まだ1試合も放映されていないのはなぜだろう。なんども書いてきたが、独占放映権をとった局は、放映する義務がある。自局でできない場合には、他局に放映してもらうようにしなければならない。
アジアの国々の命を削るような予選、スリルにあふれたドラマを放映しないのは、宝の持ち腐れというだけでなく、サッカーファンを愚弄する行為と言わなければならない。
(2001年8月29日)
1993年から東京新聞夕刊で週1回掲載しているサッカーコラムです。試合や選手のことだけではなく、サッカーというものを取り巻く社会や文化など、あらゆる事柄を題材に取り上げています。このサイトでは連載第1回から全ての記事をアーカイブ化して公開しています。最新の記事は水曜日の東京新聞夕刊をご覧ください。