サッカーの話をしよう

No.387 Jリーグ10歳 定着すぎて向かう先

 明日11月1日、Jリーグが10歳の誕生日を迎える。
 第1回Jリーグの開幕は1993年5月15日だった。しかし「社団法人日本プロサッカーリーグ(通称Jリーグ)」は91年11月1日に法人設立が認可され、日本サッカー協会「プロリーグ設立準備室」の室長だった川淵三郎さんが初代「チェアマン」に就任した。今季のJリーグは9シーズン目だが、リーグ自体は「満10歳ということになる。
 バブル経済の終末期に誕生したJリーグ。日本の社会にとっては激動の10年間だった。そしてこの社会のなかで、Jリーグも大きく変化した。
 スタートは、当事者たちさえ驚く熱狂に包まれた。スタジアムは超満員、チケット入手は困難を極め、選手たちは一夜にしてスターになった。その熱狂は数年で去り、暴騰していた選手たちの年俸も、急速に落ちていった。

 1年目の93年に1万7976人、翌94年には1万9598人を記録した1試合の平均観客数も、翌年から急落し、97年には1万0131人にまで落ち込んだ。
 しかしそれらの事象をJリーグの「凋落」と解釈するのは間違いだと思う。最初が異常だったのだ。数年を経て正常な姿で「定着」したのが、現在のJリーグの姿といえるだろう。その「定着」の姿は、多方面で見ることができる。
 第1に、Jリーグの存在が、確実に日本代表の強化、すなわち日本サッカーの世界への進出を支えていることが挙げられる。ワールドカップに出場を果たし、日本からヨーロッパへ移籍して活躍するタレントも出はじめている。プロリーグがなければ、このような急成長を成し遂げることは不可能だっただろう。

 第2にクラブ数の大幅な増加だ。スタート当時の10から、99年の2部導入を経て、現在は28まで増えているのだ。東京、大阪、横浜の3都市にふたつずつクラブがあるが、残りは四国を除く日本全国に広く分散している。現在は、実に25もの都市でJリーグが楽しまれていることになる。
 第3に、それぞれのクラブがホームタウンに根を張り、地域生活の欠くことのできない一部になりつつあるという点だ。J1の強豪クラブだけの話ではない。観客数の多寡はあっても、それぞれに熱心なファンをもち、スタジアムは熱気にあふれている。
 この10年間で最大の事件は、98年の横浜フリューゲルス「消滅」だっただろう。形としては同じ横浜のマリノスとの「合併」だったが、実際には、クラブが突然消滅したのである。
 このときのファンの反応こそ、Jリーグの日本社会への定着を明確に示すものだった。誰もが「企業の論理」に屈しかけたとき、ファンだけは事件の本質を見抜き、力を合わせて「自分たちのクラブ」を存続させたのである。そのときに生まれた横浜FCは、ことしJ2への昇格を果たした。

 この事件がファンの泣き寝入りで終わっていたら、同様のケースが他クラブにも波及し、Jリーグは危機的状況を迎えていただろう。少なくとも、現在とは本質的に異なるものとなっていただろう。
 企業によって支えられてきた日本のスポーツは、90年代の終わりに大崩壊を始めた。そのなかで誰もが「新しいスポーツのあり方」と思い浮かべたモデルが、Jリーグだった。「地域に根ざしたクラブ」という方向性だった。日本のスポーツは、まさにそうした方向へ希望を託し、進もうとしている。
 それは、Jリーグが「定着」したものとなったからこその希望に違いない。
 「定着の10年」は過ぎた。これからのJリーグは、どのような方向に向かっていくのだろうか。

(2001年10月31日)
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